My important place【D.Gray-man】
第25章 Noah's memory
「それより何? チャオジー。いきなり大声出して」
「あ、はいっス。それが…」
問えば、チャオジーの目がラビから私に向く。
それから自分の後方に移って。
「あれ、」
そして指差した先。それは転々と水滴が続く廊下の先の──…突き当たり。
「…え?」
「あれって…」
思わずラビと目を疑う。
水滴が途切れたその先にぽつんと、座っていたのは──
夕方に見つけた、あの古惚けた人形だった。
「…なんで」
あの人形を見つけたのは、下の階の廊下。
それがなんでこんな所に置いてあるのか。
…もしかして、
「別の人形?」
あれとは別に、もう一体あったのかな。
恐る恐る歩み寄る。
座り込むようにして置いてある女の子の人形は、頭を下げてぽつんとその場に置かれていた。
灯りで照らせば、人形を中心に小さな水溜りができている。
近くで見るとあの人形に似ていたけど…でもあれは濡れたりなんかしていなかったし。
「………いや。多分これ、同じ人形さ」
え?
じっと目を向けて観察していたラビが、真面目な顔で呟く。
「なんでわかるの」
「濡れてる以外は、服飾の廃れ具合とか肌とか髪の汚れ具合とか全部一緒なんさ」
流石次期ブックマン後継者。
あの時ちらっとしか見なかった人形のことを、鮮明に記憶していたらしい。
こういう時のラビの頭は、ずば抜けていて凄いと思う。
「じゃあなんで…同じ人形が此処に?」
なんで置かれているのか。
「濡らした誰かが、運んだんじゃないんスか?」
「…なんの為に」
「さぁ…」
しげしげと人形を見ていたチャオジーが、不意にそれに手を伸ばす。
恐怖心なんてないんだろう、ひょいと軽くそれを持ち上げて、
『キャハハハハ』
再び人形は高い声で笑った。
「うわ、ぐっしょり。濡れてるのに中の機能は壊れてないみたいっス」
『あたしエリー』
ふにふにと腹部を押せば、またあの時と同じ台詞を人形が吐く。
わかったから、それ押すのやめようか。
『なかよくしてね』
『キャハハハハ』
『あたしエリー』
わかった、わかった。
わかりましたから、なんか怖いから!