My important place【D.Gray-man】
第24章 3/14Whiteday
「…ありがとう」
朧気な目元が、不意に柔らかく緩む。
マスクで顔を半分隠してよく見えない表情なのに、そんな月城に目を止める自分がそこいた。
…こいつのこんな顔、他の奴には見せられねぇな。
特にモヤシ辺りには。
「任務、気をつけて行ってきてね」
「リナが一緒だからどうせ軽い任務だろ」
「…それは言えてる、かも」
今回の任務はエクソシストが二人にファインダーが一人。
リナが就く任務なら、あのシスコンなコムイのことだ。簡単な任務しかさせないに決まってる。
まぁその方が今回は都合はいいか。
早く帰って来れるなら、こいつの風邪の様子も見に行けるだろ。
そんな思考を回したところで、当然のように月城のことを考えている自分がいてつい口を真一文字に結んだ。
そうやって他人を気にかけるなんてこと、この9年間早々したことはなかった気がする。
「リナリーには、室長が風邪のこと伝えておくって言われてたから…悪いけどごめんねって、神田もリナリーに伝えておいてくれるかな」
「…わかった」
他人を気遣う暇があるなら自分の気遣いでもしろ。
いつものように出そうになった言葉を寸でで呑み込む。
ふらふらな今のこいつに、きつい言葉はなんとなく投げかけられなかった。
「──送ってくれて、ありがとう」
「お前、医務室に顔出しておけよ」
「うん」
どうにか自室前まで倒れずに辿り着いた月城は、最後まで力のないものだが笑えてはいた。
ただいつもどんなに頭を叩いても罵っても文句しか垂れない奴なのに、こんな弱々しい姿を見たのは恐らく初めてな気がする。
だからなのか。
どこか調子が狂うこの感覚は。
「戻ってくるまでに完治させてろ」
「…頑張リマス」
調子が狂うから、いつものこいつでいて欲しいと、そう思うんだろう。
念を押せば、月城は苦笑混じりに軽く拳を握ってみせた。