My important place【D.Gray-man】
第23章 2/14Valentine
あの時はなんとも思わなかった。
月城のことを女としてなんか見ていなかったから。
今はどうかと問われれば…多分、前と同じだとは言えない。
すぐ後ろにあるこいつの気配が、気になってしまうのは本当だった。
「──はい、いいよ」
やがて控えめな了承の声が届いて、一度呼吸を置いてから顔を向ける。
見えたのは脱いだ服を畳みながら、ぎこちなく俺の上着を見下ろす月城の姿だった。
どう見ても体格差はあるから、手元まで隠すぶかぶかな袖。
なのに襟が緩いから、首回りが見えてなんとも心許ない。
思いきり俺の服に着られている月城は、モヤシのコートを借りていた時よりも小さく見えた。
「なんか…すーすーする」
月城には大きい服だ、隙間ができたっておかしくない。
それでも膝を抱くように座り直すと、月城は手元の見えない袖を合わせて笑った。
「でも、さっきよりあったかい。ありがとう神田」
ふわりと、はにかむような笑み。
その笑みに、胸の奥が掴まれるような感覚がして咄嗟に目を逸らした。
「…別に──」
「くしゅッ」
おい。
「……」
「ご、ごめん。大丈夫、ちょっと癖になってるだけみたいだから」
くしゃみが癖ってなんだよ。
口元を押さえて苦笑する月城に、眉間に力が入る。
季節は冬。
濡れた上着を一枚着てるだけじゃ、寒くて当たり前か。
「…はぁ」
仕方ねぇ。
「月城」
名前を呼ぶ。
片脚は立て膝で座ったまま、伏せているもう片方の膝を軽く叩く。
「ここに来い」
「………はい?」
ぽかんとマヌケ面して、遅れがちに月城が反応を示す。
悪いがその反応は予想の範囲内なんだよ。
「暖を取るだけだ。来い」
「いや…いやいやいや。大丈夫、うん。大丈夫だから」
ぽかんとしたマヌケ面が戻ったかと思えば、即座に首を横に振る。
それはもう勢いよく。
「別に取って食いやしねぇよ。なに構えてんだ」
「そっ…んな心配はしてないよ! じゃなくて、ここ外だし…ッ」
「誰も見てねぇよ」
こんな橋の下に目を向ける奴なんていない。
そもそも人影なんて今はもう何処にもいねぇだろ。