My important place【D.Gray-man】
第23章 2/14Valentine
✣
ぽたりと、頬を伝う雨水が月城の肩に落ちる。
ゆっくりと顔を離せば、恥ずかしそうに見てくる目と合った。
「…どう致しまして」
カードに綴るような言葉でもない。
ただ「感謝する」と礼と言える言葉をその耳にだけ届ければ、恥ずかしそうにしながら、それでも月城の顔は嬉しそうに綻んだ。
バレンタインなんてもの全く興味なんてないが、こいつが俺に用意してくれたものとなればまた別だ。
俺の為に買ったらしい、少し不格好に歪んだチョコ。それを口に入れれば月城の顔は慌てて青くなった。
確かに甘いもんなんて興味ないが、そこに思いが詰まってんだろ。
月城が言った言葉が本心なら、こいつが選んだ菓子にも月城の思いが詰まってるはずだ。
それなら邪険にはできない。
「くしゅっ」
雨音しか聞こえない静寂の中、遮ったのは月城の小さなくしゃみ。
「寒いのか」
「え?…うん、少し」
問えば、口元に手を当てて小さく頷く。
その体は縮こまるように、服の上から自身を抱いていた。
よくよく見れば濡れた髪は顔や首筋に張り付いていて、ただ濡れてるだけなのに纏う雰囲気さえ違って見える。
俺の体は風邪なんてひかない。
濡れていても問題ないが、こいつは別だ。
橋の外に目をやっても、雨が止む気配はない。
この中で傘もなしに歩き回るのは、一般人なら余計に体を悪化し兼ねない。
だからといってこのまま濡れた服のまま月城を放置すんのも得策じゃない。
…どうするか。
「傘を買ってくるから待ってろ。急いで教団に戻れば風邪もひかねぇだろ」
「ぁ」
腰を上げれば、同時に袖を軽く引っ張られた。
見れば俺の袖を掴んでいる、細い手。
「私は大丈夫だから。それより、これ以上濡れたら神田も風邪ひくよ」
「問題ないつったろ。俺の体より自分の体を心配しろ」
外傷もそうだが、病気なんかも一切かかったことはない。
俺の体はそういう"造り"でできている。
「でも…」
心配そうに見上げながら、袖を掴む手は離れない。
そんな月城の姿は雨の中、橋の下で見つけた時と重なった。