My important place【D.Gray-man】
第4章 溝(どぶ)に捨てたもの
「それより神田もシャワー浴びてきたら」
床に救急箱の中身を広げて座り込む。
自分で手当てでもするんだろう、月城のその姿を確認する前に背を向けた。
「…あ」
ぎこちなく漏れた声に何かと視線だけ向ければ、濡れた髪を手持ち無沙汰に掻く姿が見えた。
「その…色々、してもらって…お礼言ってなかったから…」
もごもごと呟く声は小さい。
聞こえねぇよ、はっきり話せ。そう言おうと口を開いたと同時に、月城が告げた。
「ありがとう」
はっきりと届いたその言葉に、口が止まる。
「神田がいてくれて…助かった」
僅かに下がる頭。
『ごめん』
こいつがいつも口にするのは謝罪の言葉ばかりで、取り繕うその声が、顔が、嫌いだった。
当たり前のように漏れるあの言葉より、ぎこちなく紡ぐ今の言葉の方が、こいつ自身の言葉のように聞こえた。
…そうやって言えるんじゃねぇかよ。
「二度はないからな」
それだけ告げて、今度こそ振り返らずに脱衣所のドアを開ける。
パタンと閉じるドアの音だけ耳に、団服を脱ぎ捨てた。
中に着込んでいた服を脱げば、左胸に濃く刻まれた呪符(じゅふ)が鏡に映る。
〝セカンドエクソシスト〟
それがこの体に、周りが勝手に付けた名だった。
別に隠すようなことでもない。
誰に知られようが、どうでもいい。
それは月城に対しても同じだ。
それでもあいつを拒否したのは…多分、あいつが元より周りに関心を持たない奴だということを、知っていたからだ。
任務で何度も組まされれば少なからずともわかる。
モヤシみたいに、時々笑いたくもない顔で笑って。
馬鹿兎みたいに、社交的に周りに溶け込んでいて。
その癖どこか一線引いている時がある。
どうでもよかった。
あいつがどういう意図で、教団で働いていようと。
任務時に俺の邪魔をしなければ。
けれど。
『神田の体って、特別なの?』
初めてはっきりと、関心のある言葉であいつは投げ掛けてきた。