My important place【D.Gray-man】
第4章 溝(どぶ)に捨てたもの
『え? 今なんて?』
「だから、月城が暗証番号を誤認したんだよ。方舟は使えねぇから、明日列車で戻る」
「シャワー終わっ…げっ」
月城の荷物の中にある電話機を使って、本部と連絡を取る。
ついでにシャワー室にも放り込んだ月城は、戻って来るなり顔を青くした。
血でも流し過ぎたか。
「自分で連絡するって言ったのに…!」
『あ。その声は雪くん?』
「す、すみませんコムイ室長。私がヘマしてしまって…」
『あははー、そだね。珍しいヘマしたねー』
「う。」
電話越しのコムイの軽い言葉に、目に見えて月城が凹む。
『まぁでも神田くんがついてくれてよかったよ。今回は流石に怪我した女性を置き去りにする程、冷たくはなかったってことだね』
「…そう、ですね」
言い難そうに返す月城は、どことなく不安げな目を俺に向けた。
大方、怪我の報告のことでも気に掛かってんだろ。
「どうせ一人で戻ったらネチネチ責めるだろうが」
それを無視してコムイに声を飛ばす。
一人で戻れば、仕事の憂さ晴らしにでも俺を責めるのは目に見えていた。
『あはは、まさか。でもリナリーにそれしたら半殺しの刑だけどね☆』
そら見ろ。
「──では報告書は後ほど…はい、」
二言、三言。大まかな報告を終えた月城が、電話を切る。
やがて再度無言で俺に向けられる二つの目。
聞かなくてもその目の問いはわかった。
「怪我の詳細は伝えてない。自分で報告書を作れ」
別に隠す気もないし、コムイは俺の体の事情を知っている。
俺の血が他人の体に効いたことは、初めての現象だったが。
誰かに試したことなんて、なかったからな。
「わかった」
頷く月城の濡れた髪が、重力に従ってはらりと落ちる。
前髪の隙間から見えたのは、額の奇妙な傷跡。
「あ。これ? なんかいつの間にか怪我してたみたいで」
俺の視線に気付いた月城が、前髪を掻き上げる。
はっきりと見えた傷跡は十字架のような跡。
それがぽつんと一つ、月城の額の隅に形を成していた。
見たことがあるようで、ない形。