My important place【D.Gray-man】
第23章 2/14Valentine's Day(番外編)
「これ、まだ食べられるのかな…」
恐る恐る袋を開けて、一粒取り出してみる。
雨で濡れてしまったそのチョコは、少し歪に溶けてしまっていた。
「……」
ぱくりと食べてみる。
有名なお店で買ったお陰か、食べられなくもないけど……でも、後味がなんとも言えず…
「…微妙」
美味しいんだけど。
充分、チョコとしては美味しいんだけど。
…でもこれ、人にあげられるようなチョコじゃないな、もう。
「…まぁいっか」
元からあげるつもりはなかったし。
溜息をつきながら、袋に残ったチョコを目の前に翳して見る。
今はお腹いっぱいだから、もう入らないけど。
帰ったら自分で食べよう。
「…にしても」
視線をチョコから外の風景に向ける。
雨、止まないなぁ…。
ザーザー…
強く地面を叩く雨音に一人小さな橋の下で座り込んでいれば、まるで私一人だけ、周りには誰もいない世界のように思える。
昔は雨が嫌いだった。
寝屋にしていた空き家は隙間が多かったから、雨が降ると入ってくるし。
雨が酷いと、森に食料調達に行くことも儘ならなくなるから。
「…少しは、好きになれたかな…」
昔は、雨が嫌いだった。
小母さんの元で暮らしていたあの時の自分には、邪魔なものでしかなかったから。
…今はどうだろう。
「……」
目を閉じて、雨音に耳を傾ける。
ザーザーと降り続く一定の音は、ある意味静寂にも似ていた。
私の周りを取り囲むのは、その音だけ。
前にも後ろにも、何もない。
この雨の世界に一人きり。
「……」
ああ、そっか。
これ、黒の教団で生きる自分と似ている。
前に進むことも、後ろに下がることもしない。
ただその場に立ち続けて、両親のことを思い続けている自分。
──…でも、今もそうなのかな。
確かに一人で生き続けているけど…前に一歩踏み出したいと、思えたことはあった。
神田に近付きたいって、そう。
思い切って踏み出した私に、神田はちゃんと応えてくれたから。
一歩くらい、前に踏み出せた気はする。