My important place【D.Gray-man】
第4章 溝(どぶ)に捨てたもの
「入れ」
「ぶッ」
借りた宿のドアを開けると同時に、引き摺っていたそれを部屋に放り込む。
放った月城の体は軽く、簡単に近くのベッドに衝突した。
「痛…っも、もうちょっと丁寧にお願いできますか…一応、怪我人なんですけど…」
「お前が逃げようとするからだろ」
「だって…」
痛む脇腹を庇いながら、月城の目が俺の体を見る。
その顔はどこか申し訳なさそうに陰っていた。
「…ごめん」
どうせ俺の団服から消えた、装飾品のことを気にしてるんだろう。
無駄に金を掛ける教団の団服はボタンもチャームもベルトも全部、銀で出来ている。
それを宿代の代わりにすれば、簡単に泊まる部屋は見つかった。
「いいからさっさと、その気味悪い顔を洗ってこい」
罪悪感満載の視線を無視して、ベッドに腰を下ろす。
顔の怪我は、僅かでも出血は多い場所だ。
さっきから止まる気配のない月城の額の出血は、顔の至る所を真っ赤に染めていた。
まるで死人顔だな。
頭痛がするのか、眉間に皺を寄せて額を押さえたまま、月城が大人しく脱衣所に消える。
「手間の掛かる奴」
控えめに聞こえてくる水音に溜息をつく。
見渡した部屋はシングル用の部屋。
ベッドはこの一つしかない。
帰りの列車代のことを考えれば、精々借りられたのはこの大きさだった。
さて…どうするか。