My important place【D.Gray-man】
第22章 ティータイム後のあなたと
月城を見つけられたのは、恐らく偶然だった。
「…何が秘密だ」
修練場で掻いた汗を風呂場で流した後、足は自室に向かなかった。
目的地もないのに教団の廊下を歩き続けながら悪態をつく。
頭にこびりついてんのは、風呂場入口で鉢合わせた月城の姿。
ゴーレムと秘密なんざ作るのは勝手だが、なんでよりによってモヤシのゴーレムなんだよ。
そこが気に入らない。
いつもなら六幻を持って裏手の森で素振りでもするが、今日はそんな気分になれなかった。
『だって気持ちよくて。こういう休日、過ごしたことないから』
思い出したのは、花畑を見て笑う月城だった。
休日に花なんか見て過ごすような、そんな女みたいな思考は持っていない。
あのむせ返るような花粉の匂いも、別に好きじゃない。
それでも自然と脳裏にあの日のことが浮かんだのは…湖に蒼然と浮かんでいた、あの蓮華の花の所為か。
──あの人に会いたい。
9年間持ち続けたこの思いは、微塵も薄れたことはない。
その気持ちだけで生きてきたんだ。
《 はっぴーばーすでぃ、ユウ! 》
あいつへの思いを潰してでも生きてきた。
俺が選んだのは、あの人を追って生きる道。
《 ユウ…君ならわかってくれるよね? 》
あいつを切り捨てて、選んだ道だ。
《 一緒に死のう 》
夥しい血と、止まることを知らない涙。
混じり合うそれらを零しながら、差し出したあいつの手を俺は握らなかった。
握る代わりに、向けたのは文字通りの刃。
《 ユ…ウ…っ 》
《 ごめん…アルマ…ッ 》
《 な、で…っ 》
《 ごめん…ごめん…ッ 》
俺を見るな。俺を呼ぶな。
決心が鈍って、お前を壊せなくなる。
虚ろなその目に俺を映して何度も名を呼ぶあいつを、言い訳のような謝罪の言葉で遮って何度も何度も斬り刻んだ。
あの時感じた、あいつの肉を断ち切る感覚は一生忘れない。