My important place【D.Gray-man】
第21章 地獄のティータイム
それに、頭の隅にちらつく、去り際に見たルベリエ長官の顔。
私を見て、私を見ていなかった冷たい目。
あの人はきっと私にノアの可能性があることを知ったら、迷わず死刑宣告するだろう。
漠然とだけど、それは確信に似た思いだった。
仲間でさえも聖戦の道具としか見ていないなら、敵に情をかけるはずもない。
教団にこのことを伝えて、私が神田の傍にいられる可能性は限りなく低い。
…それは嫌だ。
例え手に入らなくても、今こうして感じている日溜まりのようなこの場所を壊したくない。
例え自分が一番じゃなくても、神田から貰えるこの場所だけは守っていたい。
「…なんか、泣きそうになっちゃった」
吐き出せない代わりに、せめて少しでも今ある本音を伝えたくて。添えられた手に触れたまま、はにかんだ。
嬉しくて泣きそうになる。
そんな感情を教えてくれたのは、目の前のこの人だ。
握っていた神田の手が、ぴくりと微かに反応を示す。
私を見下ろす黒い眼(まなこ)が、ほんの少し揺れたように見えた。
頬に触れていたその手が後頭部に回されたかと思えば、強くはないけれど確かな力で引き寄せられた。
引き寄せられて、とんと顔が触れたのは神田の胸元。
「神、田?」
急に近付いた距離に、反射でぎこちなく名前を呼ぶ。
返事はない。
さらりと滑る綺麗な神田の黒い長髪が、私の頬をくすぐる。
それだけ距離が近くて、私の髪に指先を差し込んだまま引き寄せた手は優しくて──…でも確かな力で、放そうとはしなかった。