My important place【D.Gray-man】
第22章 金烏.
「…嬉しくて泣くだなんて、どんだけなんだよ」
そうやって泣きそうな顔で嬉しいと云った月城に、どうしようもなく想いが溢れた。
そんな顔をさせるのも、そんな顔を見せる相手も、他の誰でもない俺でいたい。
「…変かな」
「…別に。おかしくねぇよ」
俺の体に触れているのは、その顔だけ。
無駄に密着することはなく、大人しくその場から月城は動かない。
俺を求める癖に、甘え方も上手く知らないガキみたいで、その小さな体を放したくはなかった。
「そうやって泣く時は、俺の所で泣け」
「…神田の所?」
もそもそと胸に当たる顔が動く。
見上げてくるその顔を確認することはせずに、片手で引き寄せたまま。
今こいつの顔を見たら、溢れたこの想いを変にぶつけてしまいそうな気がした。
この体を手放したくないが、下手に扱いたくない。
立ってるのもやっとに見えた姿に、不安は感じたままだったから。
「…じゃあ今度は、痛くしないでね」
痛く?
「涙、拭いてくれたのは…嬉しかったけど」
…ああ、あの時か。
月城の涙を見たのなんて、あの一度だけだったからすぐにわかった。
コムイの実験室で、俺の掌の下で静かに流した涙。
…あれは嬉しくて泣いたのか。
バクが顔を覗かせたから、反射的に月城の涙を袖で雑に拭った。
あれは月城の為というより、俺の為だった。
バクにこいつの涙を見せたくなかったから。
「…考えとく」
「…いや…あれ本当、痛かったから」
「だから考えとくって言ってんだろ」
「いやいや。考える前に優しくして下さい」
体勢だけはお互いに変わらず、言いたいことを言い合う。
大事な時は言葉を渋る癖に、こういう時はすらすら出るんだな、お前。
「…面倒臭ぇ奴」
「なっ」
思わず溜息と共にぼやけば、引き寄せていた月城の頭部が揺れた。
「ッ私が面倒なんて、今更でしょ…っ」
「ああ、そうだな」
「んなっ…!」
あっさり肯定すれば、自分で言った癖に動揺の気配が伝わる。
自分で言って自分でショック受けてんなよ。