My important place【D.Gray-man】
第22章 金烏.
「…あの、ね。神田。私───…」
泣き出しそうな顔をしたまま、ぽつりとその口から声が漏れる。
「……私……私、ね」
何度もその先を口にしようとするのに、できないかのように。
口を開いては、閉じる。
強く唇を噛み締めて、目を伏せる。
まるでその場に立つことでさえも必死な姿で、一歩間違えれば簡単に崩れてしまいそうに見えた。
…なんだよ。
言いたいことがあるなら言え。
我慢なんてするな。
「…月城?」
はっきりと問い質せば、果たして月城は答えてくれるのか。
その危うい姿に、強い口調で問いかけることはできなかった。
「どうした」
「…ううん」
一瞬沈黙を作って、月城の伏せていた目が静かに俺を見上げる。
「ありがとう。…神田の言葉、凄く嬉しい」
ガキのように歪んだ、あの顔はもうない。
ただその顔は、眉を下げてはにかみながら。
「…なんか、泣きそうになっちゃった」
そう、月城は笑った。
嬉しそうな顔で、くしゃりと泣きそうな目をして。
「──…」
胸の奥が、強く鷲掴みにされる。
痛い程に、切なくなった。
「…え?」
その衝動のままに、頬に触れていた手を小さな頭部に回す。
きょとんと瞬いた月城の目が俺を見上げたが、構うことなく。そのまま引き寄せれば、簡単に月城の顔は俺の胸に埋まった。
「…神、田?」
ぎこちなく俺を呼ぶ声。
その掠れた小さな声でさえも、俺の胸を締め付ける要因にしかならなかった。
月城が泣きそうに笑った顔が、頭に焼き付いて。
溢れる感情のまま動けば、自分でも知らないうちにこいつを引き寄せていた。
"──ホントに?"
…嗚呼、この気持ちは知ってる。
"おじいさんとおばあさんになっちゃってもよ?"
どうしようもなく愛しくて。
どうしようもなく切なくて。
どうしようもなく、焦がれる想い。