My important place【D.Gray-man】
第21章 玉兎.
キツいかどうかなんて、そんな弱音微塵も吐いてないのに。その言葉は今の私の現状を見透かすように、的確に突いてきた。
わなわなと口元が下がって、また情けない顔になりそうになる。
今まではそんな顔、見られたくなかったのに。
…神田になら。
そう思う自分がいた。
「…っ」
頬に触れる神田の手に、自分の手を添える。
──あのね、私
──神田に伝えたいことがあるの
冷たいのに、そこから伝わる体温は私の顔を熱くする。
──自分の体で起きてる、おかしなこと
──考え出すと不安になって、夜も眠れなくなる
きゅっとその手を握る。
…言いたい。
──私の体が、私のものじゃなくなっていくようで
──怖い
言いたい。
伝えたい。
この不安を、神田に吐き出してしまいたい。
「…あの、ね。神田」
触れる手から伝わる温もり。
心地良い冷たさなのに、温かく感じる。
木漏れ日の差すその中庭で、私の体を温めてくれる日溜まりと同じように。
温かくて、心地良くて、ずっとその中に浸っていたい。
「私──…」
ずっと、ずっと。
「……私、」
離したくない。
ずっと感じていたいから。
「……私、ね」
だから。
「……」
それを壊すことになるかもしれない
そんな言葉は、吐き出せなかった。
「…月城?」
ああ、本当。
「どうした」
どこまでいっても、私は臆病者だ。
「…ううん」
言いたい。伝えたい。
神田だけでいい。
他の人の優しさ全部、引き換えにしても。
この人のこの温もりだけでいい、それを私にくれるなら。
「ありがとう。…神田の言葉、凄く嬉しい」
ああ、そうなんだ。
こんな気持ち、持ったのは初めてだったから。
今わかった。
他の誰より何より、求めるものだから。
一番、傍に置いておきたいけれど。
他の誰より何より、傷付けたくないから。
一番、触れるのを躊躇してしまう。
大切だから、どうしても手に入れたくて。
大切だから、どうしても壊したくない。
その二つの思いは、どちらも譲れないものだった。