My important place【D.Gray-man】
第21章 玉兎.
「お前は俺が言う言葉全部、忘れてく癖でもあんのか。脳みそちゃんと使え」
「ぅっ、ごめんって…っ」
ぐりぐりと頭を乱暴に掻き回されて、髪の毛がぐしゃぐしゃになる。
そういえば神田の自室に強制連行された時も、似たようなこと言われたっけ。
忘れるなって。
「忘れたりしてないよっでもそんなこと言われたの、初めてだったから…っ」
ぐしゃぐしゃになった頭を押さえながら、その手から逃げるように顔を離す。
神田に貰った言葉を忘れたりなんかしない。
本当に嬉しかったから。
忘れるはずがない。
でもそんなこと初めて言われたから…どこか半信半疑の気持ちも、捨てきれなかったのかもしれない。
「なんか、信じられなくて…」
乱れた髪を撫でつけながら見上げれば、神田は呆れた顔で深々と溜息をついた。
…そういう反応、ちょっとショックだからやめて下さい。
「信じろよ。…ガキじゃねぇんだ、何度も言わねぇぞ」
再びその手が、今度は頭じゃなく顔に伸びる。
頬に添えられるだけの、神田の大きな手。
なのにそこから伝わる体温は、不思議と私を落ち着かせた。
落ち着かせてくれるのに…変にドキドキもする。
そこから熱が広がっていくように。
「お前が他人に心荒らされて、無視できる程どうでもいいとは思わない。お前がよくても、俺は納得できない」
何度も言わないと口にしながら、ちゃんと言葉にしてくれる神田に胸がきゅっとなる。
「そうやって見てやってんだ。…お前もちゃんと見せてろ」
「ちゃんとって…」
「どうせまたルベリエとあんなことあっても、何も言わねぇだろ。お前」
うわ、バレてる。
同じことがあっても多分、言わないとは思う。
誰かに縋って生きることは、とうの昔に止めたから。
それにこんなことで神田の気を引きたくなんてない。
心配して下さいと言ってるかのようで、そんな自分が嫌になる。
「お前はよくても、俺はよくねぇんだよ。…俺の知らないところで、あんな顔するな」
頬に触れた親指が、優しく目元をなぞる。
泣いてなんかいないのに、涙を拭き取るようなそんな仕草。
「一人でなんでも抱えようとすんな。…キツい時くらい頼れ」
それははっきりとした言葉だった。