My important place【D.Gray-man】
第21章 玉兎.
「…別にいいよ。それでも」
心なんて昔も散々荒らされた。
でも、だからいいだなんてそんな自虐な気持ちじゃない。
「私はしがないただのファインダーだし。それ以上でも以下でもないから」
それでもいいと思えたから。
「中央庁にも教団にも、何も求めてないよ」
だって、
「お前──」
「神田が、」
そうやって声を荒げるくらい、神田が私に目を止めてくれているなら。
「…神田が、見ていてくれたら…それでいい」
それだけで、充分だったから。
「……」
私がこの教団で求めるのは、神田だけ。
…そう口にするのが、こんなに勇気がいることだったなんて。
バクバクと鳴る心臓に、俯いたまま拳を握って胸に当てる。
最後の言葉は、酷くか細くなってしまった。
…それでも、きっと神田には聞こえたはず。
「……」
返事はない。
沈黙が怖いけど、顔を上げて神田の顔を見られない。
どんな顔をしているのかな。
…嫌な顔してたら、どうしよう。
「……本気で言ってんのか、それ」
長くも思える沈黙を止めたのは、先程吐き捨てるように投げかけていた言葉とは、まるで違う音色だった。
「…うん、」
静かな声に促されるように、恐る恐る顔を上げる。
見えた神田の顔は…もう眉間に皺なんて寄っていなかった。
「馬鹿じゃねぇの」
「え。」
なのに次に出てきた言葉は、思いっきり呆れたもの。
「お前、俺の何を見てんだよ」
「え…ご、ごめん?」
「疑問形で言うくらいなら謝んな」
「わっ」
がしっと頭を掴まれて、声が漏れる。
盛大に溜息をついた神田は、未だ呆れた顔で私を見下ろした。
「んなもんとっくに見てんだろうが。忘れたのかよ。月城雪って奴以外、見る気はねぇって言ったろ」
『俺が知っているのは、月城雪って名の人間だけだ』
それはあのゾンビ化事件で、神田が口にした言葉だった。
…そうだ。
あの時、迷いなく私を見てそう言ってくれたっけ。