My important place【D.Gray-man】
第21章 玉兎.
ラビの言葉に不思議に思いながら目の前の球体を見つめていると、ギザギザの歯は私の服の裾を噛むとくいくいと引っ張り始めた。
ん?
「何? どうしたの、ティム」
「どっか行きたいんじゃねぇさ?」
「どっかって…」
何処に。
そう問いかけそうになって、はたと止まる。
…もしかして。
「もしかして…あそこに行きたいの?」
思い出したのは、先週アレンと一緒に訪れたクロス元帥の事件部屋。
元帥の姿を捜すように、血痕に縋っていたティムの姿が其処にはあった。
思わず問いかければ、ティムも理解したのか。こくんと、その丸い球体を上下に揺らした。
やっぱり。
「あそこって?」
「何処だよ、其処」
不思議そうに問いかけてくるラビと神田に、一瞬迷う。
どうしよう…言っていいのかな、これ。
「…秘密です」
「へ?」
「あ?」
悩んだ結果。
笑って誤魔化すことにした。
あの夜、誰もいない教団の広い廊下を歩きながら、ティムの所在を教えてくれたアレンを思い出す。
あのどこか哀しげな横顔を思い出すと、私が他人に言っていいものか、わからなかったから。
「なんでさ」
「これはティムと私の秘密なんです。ね、」
「ガァアッ」
笑って言えば、ティムはぽちょんと私の頭に乗って賛同するように鳴いてくれた。
「アレンにもし会ったら、ティムに付き合ってるからって言っておいてくれる? そしたらわかると思うから」
「だからなんなんさ、その意味あり気な言葉っ」
「誰がモヤシなんかに伝言なんざするか」
「見かけたら、でいいよ。後でティムは返しに行くから」
どうにも二人は納得していない様子だったけど、詳しく話すつもりはなかったから。
軽く手を振って背中を向ける。
「じゃあね。鍛錬、お疲れ様」
「あ! 待てって、雪っ!」
「おい!」
二人には悪いけど、ゴーレムだって感情はあるんだから。
「…約束したもんね、ティム」
次にクロス元帥を恋しがってあの部屋に行く時は、私も付き合うって。
そう視線を上げてぽつりと声をかければ、ティムはまるで応えるように長い尾を私の頬に擦り寄せた。