My important place【D.Gray-man】
第21章 地獄のティータイム
「もう。ほら泣かないっ」
細い通路の奥で座り込んで泣く室長を前にどうしようもなく、同じように屈んで持っていたハンカチをその顔に差し出す。
「そんなに会いたいなら止めませんから。でもそんな顔で会いに行ったら、リナリーも驚きますよ」
「…雪くん…」
室長の妹思いな性格は、充分過ぎる程に知っている。
それを理由に仕事を怠けるのは感心しないけど、それだけリナリーのことを大切に思っている証でもあるから。
そう考えると羨ましくも思える。
それだけ、室長のリナリーに向ける愛は純粋で大きなものだ。
「室長が譲れないものですもんね。その気持ちは、大切にすべきだと思うから」
受け取ったハンカチを目元に当てていた室長は、眼鏡の奥の切れ目をぱちりと瞬いた。
「…ありがとう」
「いえいえ。ハンカチはあげますから、ちゃんと拭いて行くんですよ」
笑いかければ、やっと室長も口元に同じく笑みを浮かべてくれた。
「雪くん、なんだか少し雰囲気が変わったね」
「雰囲気ですか?」
屈んでいた腰を上げれば、同じにコムイ室長も立ち上がる。
「うん。以前より柔らかくなったというか。前の雪くんなら"仕事して下さい"の一言で、ばっさりだったしねー」
そうだったっけ…まぁ、仕事はして欲しいんだけど。
「そういえば変わったのは雪くんだけじゃなかったかな」
ふと何か思い出したように、室長の口元が緩む。
私だけじゃないって、誰のこと言ってるんだろう。
「憶えてるかな。前に雪くんが、僕に初めて意見した時のこと」
意見した?…ああ、検査入院する前に司令室で任務報告した時のことかな。
初めて私が意見してくれたって、あの時の室長嬉しそうに言ってたっけ。
「あれから神田くんには聞けたのかな。彼の体のこと」
「はい、まぁ…一応」
「本当かい?」
「全部じゃないですけど、教えてくれたので。一応、大まかなことは理解してるつもりです」
「そっか。よかった」
こんな所で神田の体の詳細なんて話せないから、掻い摘んで応えれば、それでも嬉しそうに室長は顔を綻ばせた。
「やっぱり」
やっぱり?