My important place【D.Gray-man】
第21章 地獄のティータイム
「よかった。此処の者達は中々私のケーキを食べてくれなくてね。美味しいものは、やはり誰かと一緒に味わいたいものでしょう」
「そうです、ね」
それは長官、貴方が怖いからです。
そんな蛇のような威圧ある顔で誘われたら、何かしら理由付けて断りたくもなります。
かく言う私も、その手段を選ぼうとしたけど選べなかった。
理由は、ただ一つ。
「それで、あのゴーレムは確かクロス・マリアンの物だったような…?」
「あ、はい…そうです、ね」
ルベリエ長官の目が、部屋の窓際に向く。
温かい日差しを外から取り入れている窓際には、夥しい乾いた血痕。
その上にぽちょんと身を置いているのは金色のゴーレム、ティムキャンピー。
そう、理由はそこにあった。
ティムと約束したから。
次にこの部屋に来る時は、私もつき合うよって。
だからティムだけを置いて、此処から逃げ出すことはできない。
本当は凄く逃げ出したいけど。
今すぐ、脇目も振らずに逃げ出したいけど。
「以前も似たようなことがありましてね。此処でお茶をしていたら、あのゴーレムが窓の外から入ってきて」
「へ…へぇ~……長官、此処でお茶をされるんですか…」
「時々」
然様ですか、流石です。
此処、立入禁止の部屋なはずなんですけど。
長官レベルなら、此処で乾いた血痕を眺めながらの優雅なティータイムも許されるんですね。流石です。
「あのゴーレムは今はクロス・マリアンの代わりに、アレン・ウォーカーが所持していると聞いていましたが」
綺麗な薔薇の絵柄があしらわれたティーカップに口を付けて、一口紅茶を含む。
無駄のない優雅な仕草で再びカップを机の皿に置くと、にっこりとルベリエ長官は笑った。
「何故そのゴーレムが、貴女のような人間についているのですかな?」
口調は至って穏やか。
言い方にも棘なんて一つもない。
なのにまるで尋問されてるようなそんな錯覚に陥る。
全てはこの方が放ってくる、凄まじい上からの圧のため。