My important place【D.Gray-man】
第21章 玉兎.
──サァァ…
「臭い、消えたかな…」
頭からシャワーを浴びながら、くんくんと自分の腕を顔に寄せて匂う。
あの後一通り急ぎの書類仕事だけ終わらせて、すぐにシャワー室に向かうとリーバーさんに言われた通り体を綺麗にした。
…一応、これでも女ですから。
臭いなんて思われたくないし。
「…多分、大丈夫かな。うん」
果たしてオイル臭さは抜けたのか、よくわからなかったけど、しっかり体は洗ったから多分大丈夫なはず。
うんと頷いて、シャワーを止める。
ドアにかけてたタオルを手に取って、体を拭き上げた。
「…あ」
ゴシゴシと頭を拭いていると、タオルに僅かに付着した赤に思わず手が止まる。
しまった、つい普通に拭いちゃってた。
「…出血…そんなにないかな…」
そっと額に触れて、掌に然程付かない血にほっとする。
シャワー室に付いてる鏡を覗けば、くっきりと綺麗に額に並ぶ、十字の聖痕が見える。
「……」
何度見ても、それは資料で見たノアの聖痕と同じだった。
はっきりと十字架のような形を模しているそれは、どう足掻いたってただの傷跡だとは思えない。
アレンと夜の書庫室で出会った後。
日を改めて調べてみても、結局具体的な回避の方法は見つからなかった。
このまま放置していたら、いつかノアになってしまうのか。そのタイムリミットさえも、わからないまま。
答えを出したいのに何も出せないまま、私は前と変わらぬ日々を過ごしていた。
…仕事は前より詰めて過ごしている気がする。
何もない時間を作ってしまうと、不安で色々と考え込んでしまいそうになるから。
「…絆創膏、貼らなきゃ」
溜息混じりに、持ってきていたポーチに手を伸ばす。
きちんと額は隠さないと、誰に見られるかわからない。