• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第21章 玉兎.



「リナリー、ちょっと」

「え?」


 軽く団服の裾を引っ張ってリナリーを呼ぶ。
 その手に持っていたポットを取ると、代わりに持ってきていた書類の一枚を手渡した。
 コピー用の書類だから、それは実際失くしても困らないもの。


「これ、頼まれてた書類。後は室長の所に持っていくだけだから」

「え? 書類?…兄さんに?」


 勿論室長に提出する書類なんかじゃないし、そんな話もリナリーと交したりしていない。
 きょとんとするリナリーに、顔を寄せてこそっと声をかける。


「コムイ室長、リナリーに会いたいって嘆いてたよ」


 リナリーにだけ聞こえるように。

 室長の仕事を抜け出す手伝いはできないけど、あんなに会いたがってたんだし。
 仕事の合間にリナリーの顔を見るくらいの、手助けならしてあげたいと思ったから。

 するとその言葉だけで理解したのか、間近に見える睫毛の長い大きな目は、ぱちりと瞬いて。


「…もう、兄さんったら」


 ふわりと、嬉しそうに柔らかく微笑んだ。

 うわ…何この微笑み。
 何この天使の微笑み。

 これは惚れる。
 ペックさんが夢中になるのもわかる。
 だって同性の私でさえも、見惚れるくらいに可愛い。


「ありがとう、雪。ごめんなさいペック班長。私、仕事があったから。行かなくちゃ」

「えっ! せめてコーヒーだけでも淹れて──」

「コーヒーなら、私が淹れてあげますよ」

「…え。」


 軽い足取りで嬉しそうに研究室を出ていくリナリーに、笑顔で手を振って見送る。
 そのままくるりと体を反転させて、ポットを手にニッコリ笑ってペックさんに声をかけてあげれば忽ちその顔は固まった。

 なんですか、私じゃ駄目ですか。
 確かにリナリーに比べたら月とスッポンでしょうけど。
 コーヒーくらい、私だって淹れられますよ。


「えーっと…また今度でいいや。僕、溜まってた仕事あるからっ」


 逃げるようにその場を去るペックさんに、溜息混じりにポットを給仕セットに戻す。
 全く、リナリーに対して下心全開なんだから。

/ 2637ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp