My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
それに今は、アレンのこの顔見たら私も少し満足できたから。
また後日、調べることにしよう。
「…ねぇ、アレン」
「なんですか?」
灯りを手に、隣を歩くアレンを見る。
向けられる表情は柔らかく、優しい。
周りから疑心暗鬼の目を向けられていたアレンは、私とどこか似た境遇の身だ。
そんなアレンなら…私の立場も、わかってくれるかな。
「あのさ、もしもの話なんだけど」
"もしも"。
その言葉を掲げたら、私も聞ける、かな。
「もしも──」
私がノアだとしたら、アレンはどう思う?
「……」
「雪さん?」
「…ううん」
不思議そうに頸を傾げるアレンに、そっと返す。
もしもの先は、言葉にできなかった。
「ごめん。急にド忘れしちゃった」
「やっぱり疲れてるんですよ」
「あはは。そうかも」
駄目だ、やっぱり。
聞くのは、アレンであってもちょっと怖い。
「雪さんも明日はお休みですか?」
「うん。明日はゆっくり起きるようにしようかな」
「それがいいですね」
"もしも"。
仮の話であっても、これは仮の話じゃないから。
アレンは優しいから、きっときちんと考えて答えてくれるだろう。
AKUMAにも慈悲を向けるアレンなら、ノアであっても受け入れてくれるかもしれない。
でももし万が一、アレンがノアの私を少しでも拒否したら。
少しでも躊躇したり、疑心暗鬼の欠片を見せてきたら。
そしたら私はもうきっと教団に言えなくなってしまう。
奮い立たせて保っているこの気持ちを、きっと挫かれてしまうから。
「にしても、お腹減ったなぁ…」
「え。さっきエナジーバー食べたばかりなのに?」
それが怖い。
だから簡単には聞けない。
「じゃあ食堂寄ってから書庫室に行く? まだ食堂もぎりぎり開いてるかも」
「いいんですかっ」
「ふふ。うん、いいよ。そのかわりに片付けも遅くなってしまうけど。大丈夫?」
「大丈夫です!」
"もしも"。
そんな言葉にさえ縋る勇気は、私にはなかった。