My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
「アレンはいつも教団の人や一般市民や…AKUMAのことを考えて、戦っているでしょ。それ、安易な善意の気持ちじゃできないことだから」
綺麗事を口にするだけなら簡単だ。
でも常に行動に移すとなると途端に至極難解さは増す。
『それでも僕は、誰かを救える破壊者になりたいです』
南イタリアのマテール。
アレンがエクソシストになって初めて任された任務地が、其処だった。
私も神田と共に、同じ任務でアレンと同行した。
其処でアレンが神田に向けた言葉が、記憶となって脳裏に過る。
マテールで発見されたイノセンスが、AKUMAに奪われかけている。その事態に早急に対処を求められた任務だった。
そこで出会ったのが、イノセンスを動力源として本物の人間のように動いていた人形──ララ。
そしてララを家族のように愛していた本物の人間である老人グゾル。
最終的にイノセンスであるララは私達の手で回収された。
でもそれを躊躇したのがアレンだ。
本物の人のように心を見せ、最期までグゾルの傍にいたいと叫んだララに非道になれなかった。
それが神田との間に亀裂を生んだ。
自分達はエクソシストであり、イノセンスを守る為に此処へ来た。
AKUMAとの戦闘で手負いの中、状況は一刻を争う。
そんな本来の目的を見失っているアレンに神田が牙を剥いた結果だ。
…そして一歩出遅れた私達はAKUMAの手を許し、ララの心はその手で奪われてしまった。
紡ぐ言葉はカタコトで、目の焦点も合っていない。
『人間様…歌はイかが…?』
『僕のために…歌ってくれるの…? ララ…』
それでもララは誰よりも真っ先にグゾルに手を伸ばした。
傍に寄り添い、歌を紡いだ。
元々寿命が尽きかけていたグゾルが、その命を閉じるまで…閉じた後も、三日三晩歌い続けた。
壊れた人形のように、自身が動かなくなるまで。