My important place【D.Gray-man】
第21章 玉兎.
書類を入れたファイルを手に、広い教団の廊下を歩く。
新本部は旧本部に比べて横に造りが広い建物だから、エレベーターや階段が少なくなった代わりに廊下が長くなったイメージ。
まだ完全に建物内は把握してないから、頭に地図を入れる意味でも歩いていると。
「雪くんじゃないか。良い所にっ」
「室長、おはようございま──…何やってるんですか」
ふらりと出会ったのは、この教団で一番偉い人。
「いや、ね。ちょっと匿って欲しくて」
「匿う?」
そして何故か私の下に歩み寄ったかと思えば、その長身を屈めて私の背中に隠れた。
…コムイ室長、それ隠れきれてませんから。
「一体どうしたんですか…あ。まさかまた、仕事サボってリーバーさんに怒られ」
「違うんだよ今回はリーバーくんじゃないんだよッ」
今回はって。
じゃあいつもはリーバーさんなんですね。
…大変だろうなぁ。
科学班班長も務めながら、室長の監視をするのって。
──カツ、カツ、
「っ! 雪くん、こっち!」
「えっ!? ちょ、何…っ!?」
そんなリーバーさんに同情をしていると、不意に身を翻したかと思えば私の腕を掴んでダッシュする室長。
訳もわからず強い力で引っ張られて、一緒に廊下を走る羽目になった。
な、なんですか!?
私、仕事中なんですけど…!
「──よ、よし…! 撒いたかな…!?」
「なんですか急に…っ」
そのまま廊下の隅にあった細い通路の奥に引っ張り込まれる。
辺りを伺いながら息を整える室長の姿は、さながら逃亡者のよう。
…やっぱり仕事から逃げてるんじゃないのかな。
「私、仕事中なんですけど…」
「僕だってそうだよ、大事な任務中なんだ」
「任務?」
言えば、はっきりと胸を張って返される。
あれ?
室長の仕事に"任務"なんてものあったかな。
「愛しの妹に会いに行くという極秘任」
「じゃあ私急いでるんで」
「待って! そんな冷たい顔で行かないで雪くん!」
片手を挙げて去ろうとすれば、即座に強く両肩を掴まれた。
何が極秘任務ですか。
ただリナリーに会いたいだけでしょ、それ。
やっぱり仕事抜け出してきたんでしょ、それ。