第20章 もしもの話

「呪いの歌～…みたいな」

「呪いって。また極端ですね」

「う…幼稚だって言いたいんですか」

「違いますよ。なんか可愛いなって」


　口元に手を当ててくすくすと笑うアレンに、恥ずかしくなる。
　仕方ないじゃない。あんなふざけた道化師みたいな悪役から、そんな子守唄なんてもの想像できないでしょ。


「なんとでも笑って下さい。普通はそんなこと思わないだろうしね」

「そんなこと。嬉しかったですよ。だってその歌は僕と──」


　僕と？

　言いかけた言葉は、不意に閉ざされた。
　軽やかに鳴っていた笑い声も止まって、アレンは言葉を呑み込んだ。


「…いえ」


　苦い笑みを一つ。首を横に振るアレンに、なんとなく察した。
　今のは私が神田に躊躇した時と同じだ。
　きっと今度こそ、簡単に吐き出せないことを口にした。


「すみません」

「…大丈夫だよ」


　表面だけ見れば、アレンはきっと誰が見ても紳士で優しい、良い子に映るんだろうけど。
　こうしてよくよく関わって見れば、きっと内面は色々と複雑なんだろうと思う。
　笑顔の下には、きっと色んな顔があるんだろうな…。


「アレンが嬉しいって思ってくれたなら、私はそれだけでいいや。だから大丈夫」


　踏み入る勇気も必要な時はある。
　でも、とどまる勇気も必要な時はある。
　なんでも吐き出せば、それで全てが解決するとは限らない。
　人との距離は、人それぞれで違うから。


「大丈夫だよ」


　だから追求はせずに、代わりにすぐ手を伸ばせば届く白い頭を遠慮がちに撫でた。
　ふわふわのアレンの髪は、触れるときめ細やかで柔らかい。

　クロス元帥の真似事になってしまうけど。
　でも、私もあの大きな手に頭を撫でられた時、少し安心できたから。


「…雪さん…」


　私を見る銀灰色の目が僅かに揺らいで、それからきゅっと唇を噛んだ。


「あの、雪さん」

「うん？」


　もう一度、名前を呼ばれる。
　返事をすれば、言い難そうにアレンは口を開いた。


「一つ、聞いてもいいですか」


　聞きたいことってなんだろう。
　こくりと頷いてみせると、アレンはもう一度だけ口を閉ざした。
　迷うように視線を部屋に向けて、それからもう一度私をその目に映す。