My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
「ええ、と」
「そっか。歌。意外だったけど、あの方舟の内装を見れば自然と結びつくものかも」
「え?」
ぶっちゃけ、歌がどう方舟の操作に繋がっているのか全くわからない。
けれど納得したフリをして疑問は吞み込んだ。
アレンが話したくないことを無理矢理に聞き出す必要はないから。
「あの白い煉瓦が並ぶ静かな街並み。方舟の内装、アレンも見たでしょ?」
「あ…はい」
「ノアが造ったものでも、素直に綺麗だと思える景色だったし。落ち着く場所だった。歌かぁ…千年伯爵は意外とロマンチストだったのかもね」
伯爵の称号を持っているし。もしかしたら紳士なところや浪漫主義なところはあるのかもしれない。
狂った道化師みたいなデザインの伯爵を思い出して、ちぐはぐな可能性につい笑ってしまう。
最初はぽかんとこっちを見ていたアレンだけど、不意に両肩を少し下げて苦笑した。
「歌を、歌うんです」
「え?」
一息間を置いて、ゆっくりと語る。
まさかアレンが話の続きをしてくれると思わなかったから、今度は私が口を閉じる番だった。
「あの方舟の中で、子守唄のような歌を聴いたんです。その歌詞の一部を頭に思い浮かべると、方舟の入口が作れる」
歌って…まさか、子守唄の歌詞を紡ぐことが操り方法だったなんて。
予想の斜め上を行く回答だった。
「似合いませんよね。あの伯爵の製造物が、子守唄で操れるなんて。僕も吃驚しました」
「うん…でも、嫌いじゃないよ」
腐っても敵の元所有物。
それに関するものを好きとは言えなくて、咄嗟に濁した言葉だった。
でも嫌いじゃないと思ったのは本音だ。
語るアレンの顔が、取り繕ったような綺麗な笑顔じゃなかったからかもしれない。
少しぎこちないけれど、懐かしむような優しい顔をしてたから。
「あ、いや。不謹慎かもしれないけど。伯爵の方舟だから、もっとこう…なんか、不気味な操り方かと思って」
それでもしげしげとこっちを見てくるアレンの視線が痛くて、つい早口に言い訳を付け足してしまった。
うう、綺麗事だとでも思われたかな。