My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
「まぁそれは今も大して変わらないんだけど…」
「そんなことない」
苦笑混じりに言えば、はっきりとアレンが遮った。
「そんなことないです」
もう一度、念を押すように繰り返す。
その顔はいつの間にか、真っ直ぐに私を見ていた。
「…僕にとっては、そうじゃない」
僅かな灯りで見える、銀灰色の目。
揺らぐ灯りの所為か、儚い瞳の中の光が揺らめいて見える。
思わず魅入ってしまう、綺麗な光。
「嬉しかったですよ。ロンドンで、雪さんがかけてくれた言葉」
光が、ふと和らぐ。
その言葉で思い出したのは、ロンドンの任務地で一瞬だけ見せた、泣きそうなアレンの顔だった。
「さっきだってそうです。心配しながら、でも無理には聞こうとしなかったでしょ。それは雪さんが持つ優しさだと思う」
「…そんなことないよ」
それは私が直接聞けない、臆病者なだけ。
優しさなんて綺麗なものじゃない。
「雪さんにとってはそうじゃなくても、僕にはそうだったんです」
はにかむように微笑むアレンに、はっとする。
それは私がミュンヘンで感じたことと一緒だったからだ。
その人が望むものであれば"良い事"として解釈されるけど、そうでなければ単なる"傍迷惑"にしかならない。
「…そっか」
アレンにとって、私の言葉は少なからず響いたんだ。
「ありがとう」
そう思うと、なんだかほっとした。
「それは僕の台詞ですよ」
「ふふ、なんか言いたくなって。ありがとね」
笑えば、つられてアレンの口元も綻ぶ。
場所はクロス元帥の消えた部屋で、少し不謹慎かなとも思ったけど。
この場で感じる空気に、どこか安心する自分がいた。
アレンはまだこの教団に入って、そう長くはない。
私とアレンの付き合いも、神田やリナリーに比べればまだまだ浅い。
なのにこの短期間で、ここまで心を開けたエクソシストはアレンが初めてだった。
きっとアレンの人間性のおかげなんだろうな。