My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
『…お久しぶりです、クロス元帥』
『ほう、大きくなったな。女としての成長は、まだまだ足りんが』
『元帥は微塵もお変わりなさそうで。その辺で幼女でも拾って湯たんぽにしてそうですね』
『はっはっは。お前くらいチビでガキ体温の奴がいればな』
緊張して声をかけたのに、通常運行のクロス元帥は相変わらずで。
ついそんな憎まれ口を叩いてしまったから、ついそんなお馬鹿な会話しかできなくて。
元帥はまた長く身を置く間もなく再び教団から姿を消した。
それから行方はぱったりとわからなくなって、次に戻ってきたのが、あの方舟事件の時だった。
ティムの探知機能を使って江戸へと飛んだアレンが、方舟事件でノアの方舟を操れた問題が起きたり。
それを理由に中央庁からルベリエ長官が教団に訪れたりもして、色々と慌ただしかったこともあって元帥と会話らしい会話はできなかった。
……そして、元帥の消息不明事件が起きた。
「ちゃんとお礼も、言ってない」
"ありがとう"って言葉じゃ足りないくらい、色々とお世話になったのに。
「もっと色々、話したかった」
元帥の生死は定かじゃないけれど、それでも後悔だけが募る。
こんなことになるなら、もっと言葉を交えておけばよかった。
「私、言葉にするのが下手だから。色々躊躇してたんだよね…馬鹿だなぁ」
後悔したって、後の祭り。
そんなこと、よくわかってたつもりなのに。
「師匠がそれを聞いたら、きっと喜ぶと思いますよ」
「喜ぶ? なんで?」
話しているうちに俯いて床に落としていた視線を上げれば、隣のアレンは窓際の血痕を見つめていた。
「だってあの人、生粋の女性好きですから。雪さんみたいな人にそんなこと言われたら、絶対口説きにかかります。寧ろ話しかけなくて正解でしたね」
「…そうかな」
「そうですよ! 大体、その規則を破ったのも何かしら雪さんに恩でも着せて、手中にする気だったかもしれません」
拳を握って力説するアレンに、その場の空気が思わず砕ける。
というか手中って。それはないでしょ。