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My important place【D.Gray-man】

第20章 もしもの話



「…うそじゃない」



 それはある意味、本当のことだったから。
 ぎゅっと拳を握って声を絞れば、それ以上元帥は私を責めなかった。



「ったく。お前は言葉を呑み込み過ぎだな」



 ただ、静かな溜息だけをついて。



「よし、わかった。それなら飯を食おう。どうせならお前が好きなもんをな」

「すきな、もん…っ?」



 わしわしと荒く頭を撫でられる。
 すぐに腰を上げたかと思えば、元帥が向かった先は部屋の外に続くドア。



「ジェリーが作る飯は美味いぞ。会わせてやる」

「あわせるって…だれ、それ」

「此処の料理長だ」



 ソファーから動けないままでいる私に、振り返った元帥が手を差し出す。



「大丈夫だ、俺がついてる。此処で生きるなら、此処のことを知らないとな」

「……」

「お前が思う程、此処は冷たいだけの世界じゃない。マシな奴もいる」

「…それって」



 拳を片手で包んで、握りしめる。



「…クロス、げんすい…みたいなひと…?」



 元帥みたいな人なら、きっと安心できる。
 そう思ったから問い掛けた私に、元帥は目を一瞬丸くした。

 初めて元帥の名前を呼んだからか。
 初めて元帥を求めたからか。



「俺に目をつけるとは、良い趣味してやがる」



 ふと、口元に柔い笑みを浮かべて。



「さぁな。それはお前の目で確かめてみろ」



 さぁ、と再度手を差し出された。



「行くぞ。雪」



 短い言葉だった。
 でもそれは確かに、私の背中を押してくれた。

 ソファーから下りる。
 近付いて伸ばした手が触れた指は、一つ一つ大きい。
 大きな指先は、ゆっくりと包み込むように優しく握り返してくれた。

 ガチャリと重い音を立ててドアが開く。
 きっと開いた扉の先は、何度か見かけたあの大きく暗い教団の内装が広がっているんだろうけど。



「ようこそ、黒の教団へ」



 振り返って笑う元帥の言葉は、不思議と強く耳に残った。
 まるで初めて教団に来た時のように。

 そしてこれが、今の私が知る今の"黒の教団"に踏み入れた、最初の一歩となった。











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