My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
「取るぞ、いいか」
「…うん」
ゆっくりと体を包んでいたコートが離れていく。
見えた部屋の内装は、今まで見たことのない高級感溢れるものだった。
高そうな家具に、ふかふかの大きなベッドやソファーに厚手の絨毯。
光沢感ある机には、無造作に様々な酒瓶が置かれている。
なんだか落ち着かなくてソファーに座らされたまま辺りを見渡す私に、目の前で屈んだままの元帥が手を伸ばす。
「っ」
体に直接触られるのは怖かった。
思わず身を固めれば、黒い手袋が止まる。
「お前、無駄に聞き分けのいいガキだからな。大丈夫だろうと勝手に思い込んでいた」
徐にその黒い手袋が外される。
素肌を見せた元帥の大きな手が、ゆっくりと頭に触れた。
「…悪い」
初めて聞いた、謝罪の言葉。
「大丈夫な訳ねぇよな」
「…だいじょうぶだよ」
「そうやって自分に言い聞かせるのは止めろ。少なくとも、俺の前では」
頭を撫でつけた手が、頬へと滑り落ちる。
直接肌に触れて、じんわりと伝わる掌の体温。
元帥のコートと同じで温かい。
…ああ、そういえば。この人の手は初めて触れた時も優しかった。
真っ赤な私の血だらけの掌に、冷たい薬を塗って手当てをしてくれたっけ。
「子供は大人に甘えるもんだ。我儘の一つでも言ってみろ」
我儘なんて。
急に言われて思い付くはずもなく口籠る私に、苛立つでもなく元帥は再度問い掛けてくれた。
「なんでもいい。欲しいもんがあれば、俺が用意してやる」
声は、優しい。
言葉通りに、受け入れてくれるかのようで。
…それなら、と小さく口を開く。
「…ごはん」
「飯?」
「おなか、へった…」
口にしてしまえば改めて体も感じたのか、きゅるるとお腹の音が鳴る。
そういえば、ずっと何も食べてない。
食べたけど食べられなかったから。
お腹は酷く空いていた。
「お前な…じゃあなんで食わなかったんだよ」
「…たべたよ」
「嘘付け。じゃあなんでこんなガリガリなんだ」
「……」
吐いたなんて言えない。