My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
すっぽりと覆われたコートの隙間から見えた、クロス元帥の顔。
鋭い眼孔の持ち主だけど、今まで私を蔑むように見てきた人達とは違う目をしていたから、怖いと感じたことはなかった。
『こいつに対して散々、身勝手してきただろうが。元よりこいつの所在を決め付ける権利なんざ、俺らの誰にもないはずだ』
ただ、止めに入る知らない大人に向ける元帥の目は酷く冷たくて。
初めて怖いと思った。
『…お前が嫌なら止めてやる。どうする』
そんな元帥の目が私に向く。
その冷たい顔で見られるのかと体は竦んだけど、間近で見下ろす目は鋭さが消えていた。
嫌とは思わなかった。
私をすっぽりと包んでくれている元帥のコートは、ただただ単純に温かかったから。
返事の代わりに、抱いてくれている元帥の腕の服を掴む。
それが"答え"だと元帥はすぐに理解してくれた。
『そういうことだ、じゃあな』
『クロス元帥…ッ!』
遠ざかる知らない大人の声。
必死なその制止に止まる気配はなく、迷いなく進む元帥の腕の中で私は一人。黒の教団の中にいるのに、初めて落ち着く自分がいることに気付いた。