My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
元帥は私を地下から連れ出してくれた人だから、心のどこかに僅かな安心感があった。
でもそれ以外の人は、皆知らない人。
知らない、黒の教団の人間。
教団内の人であれば、誰でも同じに見えてしまう。
優しい口調で、食事という薬を投与しに来た大人達と一緒。
"大丈夫"と私にとって呪文の言葉を口にしていた大人達と重なった。
純粋に怖かったんだと思う。
でも与えられたものはちゃんと食べないと、それこそ迷惑を掛けてしまう。
だから無理矢理にでも喉に流し込んだ。
流して、飲み込んで、蓋をして。
そんな心と真逆なことを体に強制させれば、どうなるか。
『げぇ…ッ』
体が拒否して、全部吐いてしまう。
そういう時は、こっそりトイレで吐いた。
お皿は綺麗にして返して、なんでもないフリをした。
数日くらい食べなくても、水さえあれば生きていられる。
ただ部屋でじっと待つだけなら、大して疲労も消費もしない。
また元帥が帰ってきた時にご飯は食べればいい。
そう単純に思っていた。
けれど。
『お前…その顔はなんだ』
元帥になる程の人だから、そういう変化を見逃さない目は当然に持っていたんだと思う。
帰ってきて私を一目見るなり、眉を寄せて怖い顔をした。
その問いに「何が?」と更に問いで返せば、元帥の顔の険しさは増した。怖かったなぁ、あの時の顔。
普段から負の表情は多かったけれど、基本的につまらなさそうというか、退屈そうなものばかりだったから。
あんなふうに怒りを込めた表情を向けられたのは初めてだった。
そのまま足早に近付いてきたかと思えば、構える前に無遠慮に服を捲られて驚いた。
『ぎゃ…! な、なにするの…!!』
『何だと? それは俺の台詞だ馬鹿が! なんだこの体、ちゃんと食えって言っただろ!』
『っ…たべたよ、ちゃんと! いわれたとおりにした!』
与えられるものにケチなんて付けてない。
ちゃんと言われた通りに全部食べた。
…ただその後に、吐いただけ。
とは流石に最後は言えなかったけど。