My important place【D.Gray-man】
第20章 If.
「雪さんにとってはそうじゃなくても、僕にはそうだったんです」
はにかむように微笑むアレンのその言葉に、はっとする。
それ、私がミュンヘンで感じたことと一緒だ。
その人が望むものであれば"良い事"として解釈されるけど、そうでなければ単なる"傍迷惑"にしかならない。
…アレンにとって、私の言葉は少なからず響いたんだ。
「……そっか」
そう思うと、なんだかほっとした。
「ありがとう」
「それは僕の台詞ですよ」
「ふふ、なんか言いたくなって。ありがとね」
笑って言えば、つられてアレンの口元も綻ぶ。
場所はクロス元帥の消えた部屋で、少し不謹慎かなとも思ったけど。
この場で感じる空気に、どこか安心する自分がいた。
アレンはまだこの教団に入って、そう長くはない。
私とアレンの付き合いも、神田やリナリーに比べればまだまだ浅い。
なのにこの短期間で、ここまで心を開けたエクソシストはアレンが初めてだった。
きっとアレンの人間性のお陰なんだろうな。
「よし。じゃあ書庫室に戻りま…ってティム! お前また…っ」
笑顔で腰を上げて、ドアに向かおうとしたアレンが声を上げる。
見ればいつの間にか、アレンの掌にあったその球体はまた、血痕の上にぽちょんと腰を落ち着けていた。
わー…こんな調子じゃ、中々目も離せないかも。
「ほら、もう帰るぞ。夜も遅いんだし」
再び手を差し出すアレンに、今度はふるふると球体を横に振るティム。
おお…反抗してる。
「こらティム!」
「まぁまぁ。まだ此処にいたいんだよ、ティム」
そんなアレンの肩をぽんぽんと叩いて宥める。
「もう少し、いさせてあげたらどうかな。その方が、後でちゃんと言うこと聞いてくれるだろうし…私も付き合うから」
「でも…」
「アレン、明日も非番でしょ? 調べものは明日もできるし。ね、」
「それは…まぁ…」
渋々と頷くアレンに笑いかけてティムを見れば、私の視線を受けてか、金色の尾をゆらりと一度だけ揺らした。