My important place【D.Gray-man】
第20章 If.
部屋の外に出たクロス元帥を止めたのは、知らない教団の人だった。
『元帥、何を──』
『こいつは俺の下で暫く面倒を見る。別に問題はねぇだろ』
『し、しかし…ッ』
『なに、コムイ・リーの任命式が済むまでだ。それまで俺の仕事も全部、内勤で頼むわ』
『元帥でも流石にそのような身勝手は…ッ!』
『身勝手?』
すっぽりと覆われたコートの隙間から見えた、クロス元帥の顔。
鋭い眼孔の持ち主だけど、今まで私を蔑むように見てきた人達とは違う目をしていたから、怖いと感じたことはなかった。
でも。
『こいつに対して散々、身勝手してきただろうが。基よりこいつの所在を決め付ける権利なんざ、俺らの誰にもないはずだ』
そう、止める誰かに向ける元帥の目は酷く冷たくて。初めて怖いと思った。
『…お前が嫌なら止めてやる。どうする』
そんな元帥の目が私に向く。
その怖い顔で見られるのかと体は竦んだけど、間近で見下ろす目から鋭さは消えていた。
嫌とは思わなかった。
私をすっぽりと包んでくれている元帥のコートは、単純に温かかったから。
返事の代わりに、抱いてくれている元帥の腕の服を掴む。
それが"答え"だと元帥はすぐに理解してくれた。
『そういうことだ、じゃあな』
『クロス元帥…ッ!』
遠ざかる誰かの声。
止まる気配はなく、迷いなく進む元帥の腕の中で私は一人。
黒の教団の中にいるのに、初めて落ち着く自分がいることに気付いた。