My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
誰もいない深夜の教団。
その暗く広い廊下に静かに響くのは、二つの足音だけ。
「ティムが飛んでいってしまう所って何処なの?」
灯りを手に隣を歩くアレンを見れば、形の良い眉が少しだけ下がる。
「師匠の姿が途絶えた、事件部屋です」
「…ぇ」
「師匠が消えてから、その姿を恋しがるようになって…目を離すと、あの場所に向かうようになったんです」
「…そうなんだ」
ティムは元々クロス元帥のゴーレムだった。
主を亡くして嘆くのは、当たり前のことなんだろう。
となると…やっぱりクロス元帥は、亡くなって、しまった、のかな…。
「…ごめんね」
「いいえ。雪さんは何も悪くないですよ」
頭を下げれば、アレンは笑って首を横に振る。
「だから謝らないで下さい」
暗い顔をしてしまったのは私の方で、それをフォローしてくれてたのはアレンの方だ。
…駄目だな、私。アレンの方が、きっと辛いはずなのに。
「アレンはさ、強いよね」
「そう、ですか?」
コツコツと暗い教団を進む足音。
その歩みは止めずに、視線も足元に落としたまま口を開く。
「周りに方舟のことで不信に見られたり、クロス元帥の事件があったり。色んなことを抱えてるのに、そうやって気遣ってくれて」
私がアレンの立場だったら、きっと他人を気遣う余裕なんてない。
自分のことで精一杯だったと思う。
「私、強いなって思ってた。そんなアレンのこと。…でもそれって、勝手にそう思い込んでただけだったんだよね」
ロンドンの任務地で、アレンが見せた泣きそうな一瞬の顔。
あんな顔、間違っても作ってできるものじゃない。
あれはきっと、アレンの心の顔だ。
「勝手にそう決めつけてた。ごめんね」
「…雪さん…」