My important place【D.Gray-man】
第20章 If.
用意してくれた部屋は簡素だったけど、温かい布団もトイレもシャワーも必要な物は揃っていたから、何も不便には思わなかった。
空き家や地下の部屋や、今まで過ごしてきた場所に比べれば、随分快適な場所だったと思う。
『ご飯、お持ちしましたよ』
クロス元帥がいない間は、他の誰かが食事を運んでくれた。
元帥が持ってくるものと何も変わらない、同じ食事。
だけど私は中々それに手をつけられなかった。
理由は一つ。
『雪ちゃん、食事の時間だよ』
あの暗い地下での生活と、どうしても重なるから。
元帥は私を地下から連れ出してくれた人だから、心のどこかに僅かな安心感があった。
でもそれ以外の人は、皆知らない人。
知らない、黒の教団の人間。
教団内の人であれば、誰でも同じに見えてしまう。
優しい口調で、食事という薬を投与しに来た大人達と一緒。
"大丈夫"と私にとって呪文の言葉を口にしていた大人達と姿が重なった。
純粋に、きっと怖かったんだと思う。
でも与えられたものはちゃんと食べないと、それこそ迷惑を掛けてしまう。
だから無理矢理にでも喉に流し込んだ。
そんな心と真逆なことを体に強制させれば、どうなるか。
『げぇ…ッ』
食べても結局、体が拒否して全部吐いてしまう。
そういう時は、こっそりトイレで吐いた。
お皿は綺麗にして返して、なんでもないフリをした。
数日くらい食べなくても、水さえあれば生きていられる。
ただ部屋でじっと待つだけなら、大して体力の消費もしない。
また元帥が帰ってきたら、その時ご飯は口にすればいい。
そう単純に思ってたんだけど。
『お前…その顔はなんだ』
元帥になる程の人だから、そういう変化を見逃さない目は当たり前に持っていたんだと思う。
『そのかおって…なにが?』
『……』
帰ってきて私を一目見るなり、眉を寄せて怖い顔をした元帥。
問えばその眉間の皺は一層寄った。
怖かったなぁ、あの時の元帥の顔。