My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
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「はい、どうぞ。こんな物しかないけど」
「いえっあり難く頂きますっ」
持ってきていた携帯食のエナジーバーを渡せば、がつがつと勢いよく食していく。
あっという間に食べきるアレンの姿はなんだか幼く見えて、つい笑みが零れた。
「まだあるよ。いる?」
「もひろんっ」
もぐもぐと口いっぱいに詰め込んだまま、新しいバーの包み紙を破く。
そんな姿に、つい重なったのは昔の自分だった。
そういえば私もこんなふうに、頬いっぱい膨らませて食事してたっけ。
『もっと落ち着いて食えよ。飯は逃げねぇぞー』
笑いながら声をかけてくれたジジさんのことを思い出す。
教団で食べるジェリーさんの料理は凄く美味しくて、つい必死になって食べていた。
ご飯を取り上げる人なんて、教団にはいないのに。
幼い頭に刻まれた小母さんの存在は、簡単には消えてくれなかったんだろう。
『食いっぷりだけはガキらしいな。お前』
そういえば、あの人もそんな私を見て笑ってたっけ…優しい顔で。
「はぁ、落ち着きました。ありがとうございます」
「早っもう全部食べたの」
「すみません、あまりにお腹が減っていて…」
「いや、それはいいんだけど」
物思いに耽ってる間に、あっという間にアレンは全ての携帯食を食べ尽くしていた。
流石エクソシスト一の胃袋の持ち主。
「ご馳走様です」
「はい、お粗末様。というか、そんなにお腹減ってたなら食堂に行けばよかったんじゃない?」
エクソシストが要望するなら、真夜中でも夜食くらい作ってくれるだろうし。
「いえ…ちょっと調べものがしたくて」
ぽりぽりと頭を掻きながら苦笑するアレンに、成程と納得する。
…でも今、深夜だけど。
「こんな時間に?」
私が言うのもなんだけど。
私が調べているものはノアの情報だ。
以前みたいにラビに見つかっても、敵の情報を知りたいからって言い訳は利く。
ただしこっそり観覧禁止の資料も少しだけ拝借したから、全てを昼間堂々と此処で読む訳にはいかなかった。
「まぁ…急に思い立って」
どこか歯切れ悪く応えるアレンに、それ以上突っ込むのはやめた。
逆に私が突っ込まれたら困るし。