My important place【D.Gray-man】
第20章 もしもの話
「こんなこと上層部の方々が聞いたら怒るかな…」
エクソシストを"神の使徒"なんて呼んでるくらいだから。
でも私は、そういうものに縋るのはとうの昔にやめた。
『かみさま、かみさま。おねがいです』
昔はよく小さなベッドの中でお祈りしたっけ。
両手を握って、空を見上げて。
でも。
どんなに願っても、お腹は膨れなかったし。
どんなに願っても、両親は迎えに来てくれなかった。
だから自分で森林や水場を漁って、空腹を満たしたし。
だから自分で両親に会いに、教団に一人で赴いた。
何かに縋る暇があるなら自分でなんとかする。
そうしなきゃ今の私は此処にいない。
そうしていつの間にか、神様に祈るのはやめた。
それに都合の良い時だけ「お願いです」なんて頼るこんな人間、神様だって願いを聞き入れたくはないだろうし。
「よし。もうひと踏ん張り」
蓋をし続けていた過去に触れると、気分が滅入る。
ふぅと息を吐いて、頭を切り替えた。
まだ見ていない文献に手を伸ばして、ざっと目を通し始める。
嘆く暇があるなら足掻いてみないと。
後悔したって後の祭り──
ぐきゅるる~
勢いを削ぐような間抜けな音が響いて、思わずがくりと肩を落とした。
タイミング悪っ。
「でもまぁ、こんな時間だし」
暗い書庫室の奥で、間抜けに響いたのはお腹の音。
深夜を示す腕時計を見ながら、仕方ないかと溜息をつく。
「お腹も減っ……てない」
はたと思考が止まる。
あれ…私そんなお腹鳴る程、空腹じゃないけど。
というかこれ、私のお腹の音じゃない。
「っ!?」
お腹の音は確かに間近で聞こえた。
思わず身構えて振り返る。
「す、すみません邪魔して…っ」
視界に飛び込んできたのは、小さな灯りを手にして申し訳なさそうに本棚の間に立つ人。
「……アレン?」
それは、白髪のエクソシストだった。