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My important place【D.Gray-man】

第19章 灯火



「ごめん」

「謝んな。悪いことなんてしてねぇだろ」

「…うん」


 俯いて小さく頷く。
 一瞬見えた表情は、まだ僅かに暗い。

 どうしたらそういう顔を晴らせるのか。
 他人の顔色なんざ伺ったことはないから、上手い言葉なんて思い付かない。


「…お前が本当に嫌がるなら、しない」


 代わりに手を伸ばす。
 俺の手を見た月城はもうビクつかなかったが、微かに息を呑んだのがわかった。
 その顔を伺いながら、ゆっくりと怖がらせないように触れる。

 爪先は向けない。
 曲げた指の背で触れたのは、嫌でも目に付く額の包帯。


「だからもう怖がるな」


 その言葉はこいつの為か、自分の為か。
 俺自身もよくわからなかった。

 視線が重なる。
 月城の目がまじまじと俺を見る。


「…じゃあ…もうちょっと…このまま…」


 再び目を伏せる。
 聞こえた声は相変わらず、か細くて小さい。


「神田の手…ほっとする、から…」


 僅かに赤らめた顔で、ぽそぽそと口にする。

 まただ。
 じり、と胸の奥が焦げ付くような感覚。
 こいつの顔から目が離せない。


「見られるのは嫌なのに、触られるのはいいのかよ」


 その感情の出し方がよくわからなくて、ついいつものように口にしてしまう。


「変な奴」


 いつもなら、そう言えば月城は開き直るか不服そうにするか、そのどちらかだった。
 なのに今回は違った。

 返答はない。
 ただ恥ずかしそうに顔を赤らめたまま、ぎこちなく視線を逃げるように逸らした。

 どくりと自身の胸が鳴る音が、耳の奥に届いたような気がした。
 そういう顔をさせたかった訳じゃないのに、そういう顔をもっと見たいと思った。


「…月城」


 逃げるように逸らすその視線を、俺に向けさせたいと思った。


「何──…っ?」


 怖がらせないように、鷲掴むようなことはしない。
 それでも逃がさないように、両手で頬を包んだ。
 再びベッドに膝を乗せれば、ギシリと揺れてスプリングが鳴る。

 顔を固定したまま、覗き込むように見る。
 赤い月城の顔に俺の影がかかる。
 ぱちりと瞬いた目が丸くなって俺を見る。
 その暗い色の目に映ったのは、確かに俺の顔だ。

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