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My important place【D.Gray-man】

第19章 灯火



「オラ、包帯取れ」

「ぃ…嫌…!」


 ぶんぶんと強く首を横に振るそいつに、仕方ないと救急箱を棚の上に置く。
 こうなりゃ実力行使だ。
 掴んだ手首を引っ張って、近付く月城の足を素早く引っ掛ける。


「ッわ…!?」


 そのままよろけた体はバランスを失って、押せばあっという間にベッドに背中から沈んだ。
 逃げる隙を与えずに、片膝をベッドに乗せて肩を上から掴んで押さえ込む。


「なん…っ」

「ガキじゃねぇんだ、痛みくらい我慢しろ」


 起き上がれず驚き見上げてくる月城を見下ろす。
 そのまま空いた手で額の包帯に手を伸ばした。


「ッ! 嫌…ッ!」


 両目が大きく見開く。
 さっきと同じ拒絶の言葉を口にする。
 だが月城の口から飛び出したのは、さっきとは全くの別物だった。

 両腕を交差させて、額を隠すように庇う。
 強く目を瞑り、歯を食い縛る。
 それはまるで全身で拒否しているかのような姿。

 重なったのは、任務地でAKUMAの血に塗れた月城の姿だった。
 俺の手を振り払い、見上げてくる目は動揺するように揺らいでた。
 何よりその顔は恐怖を体現するように酷く怯えていて、思わず口も手も止まってしまった。

 俺の言動に怯える月城は、幾度と見たことがある。
 ただあんなふうに、心底恐怖を感じるような目は見たことがなかった。

 その時と同じだ。
 一瞬、息が詰まる。


「…月城」


 沈黙を置いて、一呼吸。静かに呼べば、びくりとベッドに沈む体が跳ねた。
 ジジの言葉を思い出す。
 まるでその姿は、ジジの言う通り怯える小動物のようだ。


「…何がそんなに嫌なんだよ」


 押さえていた肩から手を離す。
 見下ろしたまま問えば、恐る恐る目が開く。
 俺を映す暗い色の瞳は、不安そうに揺らいでいた。


「痛いのが嫌ってんなら……優しく、する」


 自分でも思い掛けない台詞だった。


「それでいいだろ」


 それでも止める気はなかった。

 ここまで怯えるようなことを、こいつに強要させたかった訳じゃない。
 ただ怪我の大小関係なく黙って我慢する奴だから、この目で見て確かめたかった。
 確かめて…きっと安堵したかったんだろう。こいつが無事なことに。

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