My important place【D.Gray-man】
第19章 灯火.
「ち、近…っ」
「望み通りにしてやってんだから、俺にも好きにさせろ」
ベッドに座り込んだまま後退る体を追いかける。
両手は未だ月城の顔を掴まえたまま、逃げた体はすぐに後ろの壁に背中を当てた。
「ほ、んと近いから…っ」
「お前が逃げるからだろ」
逃げ場を閉ざしてその顔を覗けば、赤い顔のまま息を呑んだ月城の目は俺を真っ直ぐに捉えた。
他の誰でもない、俺だけを映すその目に胸が満ちる。
そうやって俺だけ見てろ。
漏れそうになったその言葉を呑み込んだ口元は、自然と緩んでいた。
「ッ! それ反則…ッ」
「…あ? 何がだよ」
途端に面白いくらいに月城の顔が、真っ赤に変わった。
まるで林檎だな。
「自分の顔の威力を知って下さい…!」
「何意味不明なこと言ってんだ」
「これだから無自覚美形は…!」
「…馬鹿にしてんのかお前」
別に望んでこんな顔になった訳じゃない。
美形だなんだ、そんなもん俺には余分なパーツだ。
この顔の表面を見て寄ってくる、うざい奴らもいるからな。
それにこの体のパーツはどれも所詮"器"。
教団に造られたもんだ。
「馬鹿になんてしてません! もう充分落ち着いたから…ッ手、離してッ」
「どう見たってテンパってんだろ」
「それ神田の所為!」
俺にとってはただ表面を覆う、人の皮に過ぎないもの。
それでも少なからず、こいつに影響があるのなら…例えそれが"器"の俺でも悪い気はしなかった。
「やっと消えたな、辛気臭ぇツラ」
両手を月城の顔から離す。
林檎みたいなその顔の方が、余程こいつらしく見える。
言えばその目はぱちりと瞬いて、考えるように黙り込んだ。
「…神田、」
ベッドから降りて救急箱を棚に戻す。
未だベッドに座り込んだままの月城が、言い難そうに問いかけてきた。
「辛気臭いのって…やっぱり、嫌いだよね…?」
…なんで嫌い前提なんだよ。