• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第19章 灯火.



「入れ」

「わ…っ」


 自室に着くと同時に、掴んでいた月城の腕を引いて中に放る。
 軽い体は呆気なく、二、三歩よろけるようにして部屋に入り込んだ。


「だから…ッ……」


 未だ抗議を上げようとして、振り返ったその表情が止まる。


「……此処、神田の部屋?」

「それがなんだ」


 後ろ手でドアを閉める。
 興味深そうに辺りを見渡した月城は、しみじみと呟いた。


「…何もない」


 そう一言。

 他人の部屋なんて興味ねぇが、俺の部屋は恐らく殺風景なもんなんだろう。
 ベッドと棚が一つだけ。
 部屋なんて寝泊りできる、最低限の物があればそれでいい。


「別にいいだろ」

「…悪いとは思ってはないけど…なんか…こう、神田らしいというか…」


 再度まじまじと部屋を一周見回して、元の位置に戻った目が俺を見る。


「何気に、初めて見たから。ちょっと感動というか」


 そしてその顔は、どこか嬉しそうに笑った。
 …確かにこいつを自室に入れたのは初めてのことだ。


「カーテン、付けないの?」

「必要ない」

「絨毯は? 冬は冷えると思うよ」

「別に平気だ」


 両手を後ろで組んで、部屋を見渡しながら月城が辺りを歩く。
 窓から外の景色を見て、壁に沿って歩いて、棚を通り過ぎて、そのままドアノブに──


「何さり気なく逃げようとしてんだ」


 ドアノブに触れようとした手首を掴む。
 低い声で言えば、案の定思いっきり冷や汗を流しながら月城は固まった。


「ッ…ほ、本当に気持ちだけで充分だから…! 痛いの嫌だから…! やめようよっ!」

「お前いつも任務先で怪我しても、黙って我慢してただろ。今更痛みがなんだ」


 手首を掴んだまま棚まで歩く。
 そこから救急箱を取り出せば、月城の抵抗は更に強さを増した。

 ここまで嫌がるこいつを見たことは中々ない。
 というかこいつがここまで嫌がる程、しつこく何かを迫ったことはなかった気がする。


「オラ、包帯取れ」

「ぃ…嫌…!」


 ぶんぶんと強く首を横に振るそいつに、仕方ないと救急箱を棚の上に置く。
 こうなりゃ実力行使だ。

/ 2638ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp