My important place【D.Gray-man】
第19章 灯火
「えっと…ごめん」
「は?」
「え。ご、ごめん」
「違う。なんでお前が謝る」
「や、なんか…空気、ピリピリさせたから…私が喧嘩の発端みたいだったし…」
俯きがちにこっちを見てはっきり話さない姿は、いつもなら苛立ちしかない。
…なのに今そんな気持ちは感じない。
「…別に。あれはお前に言った訳じゃない」
さっきの胸糞悪い空気も、こいつとだけなら感じない。
「でも…」
「でももクソもねぇよ。お前の所為じゃねぇって言ってんだろ、変に気負うな」
俯きがちだった顔が上がる。
俺を映すその目が、真っ直ぐに俺を見る。
"エクソシスト"としての枠組みじゃない、俺自身を見ている目だ。
その顔を見ると、力んでいた体の力が僅かに抜ける気がした。
「それよりお前、怪我しやがったから戻ったら消毒な」
「えっ!? ぃ、いやそれは…っ大した怪我じゃないし」
「言い訳は聞かねぇ」
「ま、待って! 消毒ならもう自分でしたからッ」
「よく怪我をほっとく奴の言うことなんざ信じられるか」
消毒の名を聞いた途端に、顔を青くして首を横に振る。
一度ならず二度も三度も振り続けるのは余程、あの消毒が嫌だったのか。言葉に詰まっても尚、首だけは振り続けている。
壊れた玩具かよ、往生際悪ィな。
「うだうだ言うな。怪我したお前が悪い」
「っしたくてした訳じゃ…!」
はっきり言えば、月城が声を荒げる。
それは最後まで言葉を成す前に、萎むように消えた。
「っ…」
「なんだよ」
「…なんでもない」
問えば視線を逸らす。
何か言おうとしては口を閉じて、呑み込むように。
こいつは弱い自分が嫌いだと言っていた。
今回の怪我で、それを思い知らされでもしたのか。眉を寄せて唇を噛む姿は、どことなく引っ掛かりを覚えた。
「あと3分ですね。本部からゲートが開けられるまで、ここで待ちましょう」
「あーお腹空いた…」
「キャンディ持ってるけど、アレンくん食べる?」
「食べる!」
後から教会に踏み入れてくるモヤシ達に、はっとしたように月城の顔が上がる。
「雪ちゃんも食べる? キャンディ」
「うん。ありがとう」
そこにもう難しい表情なんか浮かんでいなかった。