My important place【D.Gray-man】
第19章 灯火.
「ジジさん、それ昔の話…っ」
「でも事実だろ。食事ん時は急いで頬いっぱい飯詰め込んで食うしなー。誰も取りゃしねぇってのに」
抗議するように言う月城は困り顔。
モヤシみたいに飯に執着する奴だったのか、こいつ。
…そういや蓮華の茎まで食う奴だからな。
余程腹でも空かせてたのか。
じゃなきゃ花を観賞より食用に選ぶなんざ早々しない。
少なくともそんな奴は、俺には月城が初めてだった。
「ハムスターみたいだろ?」
「へー、知らなかったなぁ」
「なんだか可愛いわね」
ジジにつられて笑うジョニーや貧血女に、その場の雰囲気が和む。
決して悪くない、そんな空気の中。
「そう、かな」
話の中心人物だけは、ぎこちなく苦笑していた。
…こいつが唇を噛んで言葉を呑み込んだ時と同じだ。
俺の中でその表情が引っ掛かる。
「いつまでも無駄話してんじゃねぇよ。さっさと報告に行くぞ」
そんな月城をその場に置いておきたくなくて、急かすように声をかける。
「でもイノセンスを先に──」
「イノセンスなら僕がヘブラスカに届けておきますよ」
「私も一緒に行っていいかしら、アレンくん。まだ届けたことなくて」
「勿論、いいですよ」
回収したイノセンスを手に言うモヤシの目が、俺に向く。
「だから報告は任せます。…くれぐれも手荒にしないように」
その言葉は明らかに俺に向けられたもの。
どこまでも月城のことに突っ込んでくるモヤシに、つい眉間に力が入ったが。
「…行くぞ」
「ぁ、うんっありがとうアレン、ミランダさん」
「こちらこそ、報告頼みます」
「ええ」
反応はせずに背を向ける。
歩き出せば、小走りでついてくる月城の気配を背中に感じた。
「ジジさんとジョニーも、また」
「うん、任務お疲れ様ー」
「またな~」
律儀に周りの奴らに声を上げた、その数分後。
「──あっ」
何か思い出したように、またも月城は声を上げた。
なんだ。
「アレンのコート、返し忘れた…っ」
「……んなもん後にしろ」
…そんなことかよ。
別に今じゃなくてもいいだろ、そんなもん。