第19章 灯火

「お前じゃねぇんだ、簡単に番号間違えたりし」

「わーっ！」

「番号を…間違えたり…し？」

「なんでもない、なんでもない！」


　それを口にしようとすれば、慌てた月城の手が俺の口を塞ぐ。
　任務前もモヤシに同じ行動で口止めしてたか、そういや。
　不思議そうに問いかけてくる貧血女には余程知られたくないのか。


「それ言わないで恥ずかしいからっ」


　別に今更だろ、お前のドジなんか。


「なら間違えんなよ。次は宿なんて取らねぇからな」


　こそこそと小声で言う月城の手を掴んで、口から引き剥がす。


「も、勿論。大丈夫だよ」


　胸張って言いいながら声が吃ってんぞ。
　本当に間違えんなよ。
　次間違えたら野宿させるからな。


「大丈夫ですよ。またそうなっても、その時は僕がつき合いますから」

「え？　アレンが？」

「はい。此処から教団本部はそう遠くないですし。偶には公共の乗り物でゆっくり帰るのも、悪くないですしね」


　きょとんと見る月城に、紳士紛いの笑みを浮かべてモヤシが頷く。
　つーか普通に話に入ってくんじゃねぇよ。


「怪我のこともあるし。寧ろ雪さんの休息になるなら、そっちの方が都合が良いかもしれません」

「アレン…っ」


　モヤシの言葉に、感動したように大袈裟に名を呼ぶ。そんな月城の姿に、つい眉間に力が入る。

　公共の乗り物も何も、今は深夜だ。そんなものどこも動いちゃいない。
　となればモヤシと一晩寝泊まりする選択肢しかない。

　仮にも女だろ、お前。
　どんなに紳士なツラ構えてても、こいつは男だぞ。
　少しは危機感持てよ。


「じゃあその時は、お言葉に甘え」

「てんじゃねぇよ」


　笑顔で頷こうとする月城の頭を、包帯には触れないように掴んで阻止する。
　痛む程には力を入れず、それでも顔の動きは止める程度に。


「だから乱暴するなって何度言ったらわかるんですか。そこ、雪さんは怪我してるんですよ」

「あ？」


　んなことわかってんだよ、だから包帯には触れてねぇだろ。
　そんなことをわざわざモヤシに言う気もなく黙って睨み返せば、今度は俺の手首を強く掴んで引き離してきた。うぜぇ。