My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に
アレン達に急かすように連れられたカーラさん宅。
其処で真っ先にAKUMAの血を洗い流すようにと、神田とアレンに浴室に押し込まれた。
そこで私が足を進めたのはバスタブじゃなく、壁に設置された鏡。
AKUMAの血に塗れたマントも何もかも脱ぎ捨てた姿で、恐る恐る前髪を掻き上げる。
AKUMAの血か、私自身の血か。真っ赤に塗れたそこに浮かんでいたのは──十字の傷跡。
思わず息を呑んだのは、傷跡が一つだけじゃなかったからだ。
まるで意図的に刻んだかのように、綺麗に額を横に並んだ何個もの十字傷。
『ノアの一族には、額に十字模様の聖痕があるんさ。こう、一列に』
夜の書庫室で出会ったラビの言葉を思い出す。
あの時、十字の傷跡から連想するものを教えてくれた。
それはまさに今、鏡に写っているものと同じだ。
「…なんで…」
それだけじゃない。
額から、胸に凝視を移す。
ファインダーのマントに焼き付いた、十字架の焼き印のような跡。
その下の皮膚は出血はないものの、火傷したような小さな傷跡ができていた。
この胸にAKUMAの攻撃なんて受けてないはずなのに。
受けたのは、アレンの"退魔の剣"だけだ。
あの剣が効果を発揮するのはAKUMAとノアに対してのみ。
それが私に効いたとなれば…辿り着くのは最悪の結論だけ。
「…なん、で…」
この額の十字傷は、ノアの聖痕と同じだということ。
「…っ」
額を押さえて俯く。
頭を刺すような痛みは、もう止まっていた。
もしかしたら。
そんな馬鹿な予感が現実になるなんて。
私の親はエクソシストだった。
私自身、教団に身を捧げて働いている人間。
そんな人間がノアだったりなんてしたら。
「…滑稽過ぎて…笑える…」
そんなのまるで陳腐な喜劇だ。
「……っ」
自嘲に似た乾いた笑みが漏れて、歯を食い縛る。
嘘。
笑えたりなんかしない。
滑稽過ぎて笑えない。
なんで私が。
そう問い質したいのに、問い質せる相手がいない。
この思いを明かせる相手も、衝撃をぶちまけられる相手も、誰もいない。
重く足場を引き摺るような、暗い何かが私の奥底を渦巻く。