My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に
沈黙が短いようで長い。
もう一度恐る恐るフードの下から見上げれば、神田が空いた手を私に伸ばした。
「っ」
思わずビクリと体が跳ねる。
大丈夫。
体中AKUMAの血塗れ状態だから、額の流血は誤魔化せてるはず。
怯えた反応をしてしまったからか。一瞬、顔の手前で手が止まる。
それから様子を伺うように、そう、と指先が私の口元に静かに触れた。
ゆっくりとした動作は怖がらせまいとしているようで、反射的に体がビクつくことはなかった。
「か、んだ…?」
血を拭き取るような動作で、触れた指先が口元を拭う。
痛くはない、丁寧な手付き。
思わず見上げ直した顔は、まだ僅かに眉間に皺を寄せていたけど。
「じっとしてろ」
その口から零れる声に棘はない。
…心配、してくれてるのかな。
勘繰るような気配はどこにもない。
そんな神田の姿に、先程感じた怖さはもう消えていた。
「カーラさんが浴室を貸してくれるそうです、行きましょうっ」
後方から呼びかけるアレンに、口元から手が離れる。
だけど私の腕を掴んだ手が、放されることはなかった。
「行くぞ」
「ぅ、うん…っ」
そのまま歩き出す神田に、慌てて後をついていく。
片手でフードが脱げないように掴みながら、目の前の高い背中を見上げた。
ズキンと、また一つ。
額を刺すような痛みに顔を歪めて。