My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に
「大丈夫じゃねぇだろッ顔向けろ!」
尚更強く両肩を掴んで持ち上げられる。
抗う余裕もなく簡単に顔は上がって、睨むように見てくる神田と目が合った。
真っ黒な鋭い瞳は、何もかも見透かしてしまいそうで。
私の中の異変全てを、見破られてしまいそうで──怖くなった。
「っ…!」
額を押さえたまま、反射的に肩の手を振り払う。
真っ黒な鋭い瞳が、一瞬見開いた。
「だ…大丈夫ッちょっと、AKUMAの血で立ち眩み、しただけだから…ッ」
必死に言葉を紡ぐ。
脱げていたフードを深く被って額を隠した。
大丈夫。
見えてないはず。
きっとバレてない。
「お前──」
「雪さん!」
続こうとした神田の声を掻き消したのは、AKUMAを仕留め終えたアレンだった。
「どうしました。やっぱりAKUMAの血を…ッ?」
「う、ん。大丈夫。すぐ洗えば、」
とにかく今の姿を見られたくなくて、駆け寄るアレンに俯き加減に返す。
大丈夫。
大丈夫。
心の中で何度もそう言い聞かせて。
「急いでその血を洗い流さないと。ミランダさん、イノセンスは…っ」
「え、ええ…ッハワードさんが確保してくれたわっ」
頭はまだ痛むけれど、あの謎の声は止んでいた。
同時に杭を打ち込むような鋭い頭痛も、少し弱まってくれた気はする。
慌ただしくミランダさん達の所へ駆けるアレンの姿を見送りながら、ぎゅっと拳を胸の前で握る。
大丈夫。
大丈夫だから。
「月城」
さっきみたいな怒号じゃない。
静かな声に応える暇もなく、伸びた手が腕を掴んだ。
フードの影から視線を僅かに上げれば、じっとこっちを見てくる神田がいた。
眉間に皺を寄せた、怖い顔をして。
その視線から逃げるように顔を逸らす。
「…血は飲み込んでないんだろうな」
挙動不審に見えてもおかしくない私を、何故か神田は怒らなかった。
「っ、うん…」
小さく頷いて返す。返答はない。
様子を伺うように見てくる神田の視線は未だ感じる。
体に緊張は走るけれど、さっきみたいに振り払う気は起きなかった。
そんなことをしてフードを引き剥がされたら堪らない。