My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
何も言えないでいる雪に、ティキの口元が緩む。
雪の性格は知っている。
誰にでも平等に腕を広げられるような優しさは持っていなくても、一度心を開いた相手には簡単に折れたりはしない。
向き合って、考えて、咀嚼して、何度だって目を向けてくる。
その心がほんの少しでも、自分にも向けられているなら。
(悪役に徹する、か)
己は必要悪なのだ。その自覚はある。
「yesもnoも無くていい。俺を見てるだけでいいから」
その心の隙間に、つけ込むことだって躊躇しない。
「…っ」
ゆっくりと下りてくる。
薄暗い部屋で揺らぐ金色の瞳から、目が離せない。
体は思ったように力が入らなくて、簡単に距離を縮めたティキに視界は覆われた。
ふわりと、唇に優しい感覚。
ぎゅっと反射で目を瞑れば、瞼にも優しいキスは下りてきた。
瞼、額、鼻先、頬、と恭しく触れる唇。
耳朶を長い指先で幾度も擦り上げてくる。
その度に、熱が体に落ちていくようだ。
「目は閉じていていいから。名前、呼んで?」
触れる指先も、唇も、そこから零れ落ちる声も。
甘く優しい。
つい促されるように、雪の唇が動いた。
「…ティ、キ…」
「ん。もっかい」
「ティ──んっ」
紡ごうとした二度目の名は、最後まで呼ぶことなく呑み込まれた。
深く塞いだ、ティキの唇で。
「ふ、ンン…ッんぅっ」
何か言葉を繋ごうとすれば、更に深くなる。
両手で顔を包まれて、逃げ出すことができない。
易々と雪の咥内を満たす長い舌が、上顎の奥を撫で擦ると、ぞわりと下半身から何かがこみ上げてくる。
力が入らない。
蕩けるようなキスだった。
含む唾液も、絡む舌先も、撫でられる喉奥も、全てが甘い。
「は、んッ…ふぁ」
気付けば両手はティキのシャツを握り締めていた。
固く閉じていた瞳が、薄らと開く。
頭の中を巡るものも、目線が辿るものも、目の前の男にしかない。
何故こんなことをしているのか、という疑問すら浮かばなかった。