My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「だから…っ…だから…そんな顔、しないで…」
「……じゃあさ、これも憶えてる?」
そんな顔をしないでと告げる雪が、今にも泣きそうな顔をしている。
ふ、とティキの眉尻が下がる。
優しい笑みを浮かべた口元が、ふわりと触れたのは雪の瞼の上。
「口付け一つで怖気付くなんて、らしくなくて笑っちまうけど。…"ここ"にしても、雪は忘れるから。それが嫌で避けてた」
おふざけのような戯れのようなキスなら一方的にしたことがある。
しかし愛を紡ぐような口付けは、自ら避けた。
瞼の上にキスを落として、ここまで。と自ら終わりにしたのだ。
どんなに愛を紡いでも、目覚める雪の心には何も残らないのだから。
「でも今は、雪に触れたい。その顔がもっと見たい」
「その、顔…?」
「俺だけ求めてくれる顔」
長い褐色の指先が、雪の唇に触れる。
「だから今だけ、俺だけの雪をくれる?」
「ティ、キ…?」
落ちてくる顔。
今にも触れ合いそうな唇に、雪は思わずソファの上で手を付いて身を起こそうとした。
「ゆき」
「ッ」
耳元で囁く、低くも甘い蕩けるような声。
何故か力が抜けて、かくんと肘がソファに落ちる。
「大丈夫。これは夢の中だから。俺は亡霊とでも思ってくれればいい」
「亡、霊…?」
「触れたくても触れられない。起きたら忘れてる。亡霊みたいなもんだろ」
「そんな…っ」
「そうは見えない?」
首筋に埋まるティキの唇が、ちぅ、と肌を吸い上げる。
ぴくんと反応を示す雪の体を易々と押さえ付けたまま、ゆっくりと顔を離して笑った。
「なら悪い男に捕まったとでも思ってくれたらいい。雪は何も悪くねぇから」
「っ…」
告げる口角は緩やかに上がっているというのに、見下ろす金色の瞳は哀しげに揺らいでいる。
(なんで…そんな顔、するの)
口を開きかけて、雪はきゅっと噛み締めた。
そんな顔で、そんな声で、そんなことを言われれば、悪になどできなくなってしまう。