My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「この世界は雪が在って成り立ってる。だから害を成そうとする者なんかいねぇよ」
「そう…かな」
「?」
「よくわからないけど…なんか、時々…すごく嫌な夢を見るような気がする…」
「嫌な夢?」
「すごく、綺麗なんだけど…冷たい。私には触れられない、もの」
ティキとの距離に頬を染めていた顔が、不意に陰る。
睫毛を伏せて告げる雪の心情には、なんとなく勘付いた。
全てがそうとは言わないが、恐らくワイズリーが意図的に見せていた神田の過去もその一つだろう。
朧気な精神にしか関与していなかった為、雪の潜在意識には刷り込まれていても本人は気付いていない。
上々だ。
雪の心に、神田ユウへの負の感情を植え込む。
その成果が出ている証拠だ。
なのにティキの心中は穏やかなものではなかった。
直接心に触られているかのような、ざわりと鳥肌が立つ嫌悪感。
そんな顔を見せるのもまた、神田に対してだけなのだから。
「…嫌な夢なら、俺だって見るよ。人間ってそういうもんだろ?」
「…ティキも…?」
「良いことよりも、嫌なことの方が不思議と憶えてたりするからな」
「ぁ…うん。わかる。それ」
切り替えるように、さり気なく話題を変えていく。
こくこくと頷く雪の目が、ティキの話に興味を持った。
先程まで顔を出していた陰りが薄くなる。
「ティキの嫌なことって?」
「…俺は此処の住人じゃないから、都合よく忘れたりしないんだよね」
「何を?」
「雪は忘れても、俺は憶えてる。前にも言っただろ?」
「…此処で過ごした記憶?」
「そ。雪と話した内容も、見せてくれた表情も、全部憶えてる。でも雪は忘れるだろ?…それが悪いとしんどい」
「ぇ…」
「だからもう此処へは来ないことにしたんだ」
「っ…ぃ…」
「?」
「イーズ…モモ。クラック」
一つ一つ、噛み締めるように。
告げる雪の声は、はっきりしていた。
「憶えてるよ。ティキの好きな人達」
縋るように、求めるように、その顔が訴える。
「忘れないよ。一緒にご飯食べようって、誘ってくれたこと」