My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「じゃあ俺もさ、面倒臭いこと言っていい?」
顔を覗き込むようにして笑いかける。
返答を聞く前に、ティキは更に身を乗り出した。
「俺も、俺しか知らない雪が欲しい」
「…ティキ…しか?」
「そ。俺しか知らない雪を頂戴?」
恥ずかしそうにも恨めしそうにも見返していた雪の目が、ふと瞬く。
「…現にこの状態がそうじゃないの?」
「確かに今は二人きりだけど、覗き魔がいるからなぁ」
「えっ覗き魔!?」
「俺達の見えない所で覗いてくる奴だから、捜したって見つかんねぇよ」
「ってことはやっぱり誰かに覗かれてるのっ?」
"覗き魔"などと聞けば焦るのも無理はない。
驚きあちこち見渡す雪の反応は尤もらしいが、今欲しいのはそんな反応ではない。
「まぁ、危害は加えてこないから安心していいよ。それに、こうしてしまえば」
「わっ」
「雪の顔が今見えてんのは、俺だけ」
更に一歩。ソファの上に膝を着いて身を乗り出したティキが、雪の腰を抱く。
腰を引き寄せて、受け止めるように背に手を当てて。膝立ちになるティキの下に滑り込むように、雪はソファに仰向けに沈んだ。
顔の横に腕を着いて近付くティキに、雪の視界が彼に埋め尽くされる。
「ち…近、い」
「近付けてるからな」
「近過ぎ…では」
「いけ好かない奴から雪の顔を隠す為にな」
「そんな人がいるならこんなことしてる場合じゃ…」
「大丈夫」
身を起こそうとする雪の肩を、やんわりと押し返す。
優しくも、有無言わさない強さで。
「此処は雪の夢の中みたいなもんだから」
「夢みたいな、もの?」
「あー…精神世界とでも言うのかな。雪の心の中の、更に深い部分。だからこの世界の主は雪になんの」
さらりと告げるティキの説明に、雪はすぐに呑み込めなかった。
夢だと過去に聞かされたことはあるが、精神世界などと。
この場にワイズリーがいたら十中八九咎めていただろう。
それだけ核心のある話をティキは発したのだ。
今まで何度もその世界に踏み込みながら、雪に告げなかったものを。