My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「雪の肌、吸い付くように柔くてさ。壊れそうに華奢なのに、包み込んでくる感じもあって。心地良くて、ずっと触れていたくなる」
「ぃ…今までそんなこと言わなかったのに。急になん」
「言ったろ。俺、初めて知ったんだって。雪の体のこと」
雪からすれば急でも、ティキにとってはそうではない。
ようやく知り得たのだ。
たった一夜の些細な戯れのような出来事だったが、それでも確かにあの日、あの夜、生身の雪に触れた。
生きている雪自身に。
「知ってしまったから、今のままじゃ物足りなくなった。気付いてしまったから、後には戻れなくなった。…割と上手く生きてたつもりだったんだけどなぁ…なんでこんな面倒なことになったんだか」
ぽりぽりと強い癖のある髪を指先で掻きながら、己に溜息をつく。
きゅ、と。
絡めていた細い指が、握り返してきた。
「ティキ、は……私といると、面倒臭い…?」
恐る恐る顔色を伺うように問いかけてくる雪に、思わず目が丸くなる。
「……」
「あ待ってもういい。わかった。今面倒臭いって思ったでしょ」
「あ。」
思わず生まれる沈黙を破ったのは、雪だった。
絡めていた手を即座に離し、己の顔を両手で覆う。
「今のは忘れて。全部」
「いやあ、確かに面倒な台詞上位だけどそれ」
「忘れてって言ったよね今!? ごめんなさい!」
「待てって。普段なら身を退くとこだけど、なんでかな」
羞恥からか、髪の隙間から覗く赤い耳を見つけて、思わず顔が綻んでしまう。
「雪相手だと、そういう感情も引っ込んじまうの」
やんわりと顔を覆う掌を引き離す。
耳と同じく赤く染まった感情を隠せないその顔も、いじらしくてつい笑ってしまうのだ。
「ぅぅ…絶対思ってない…笑ってる…」
「可愛いなって思って」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
恥ずかしそうに身を捩りながらも、やはり逃げ出そうとはしない。
その姿に湧き上がる感情で、堪らず破顔してしまうのだ。