My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「…俺。初めて知ったんだよね」
「え…?」
「雪の体温」
「え」
「この間、初めて触らせてもらった」
「ええ…いやいや。何度も触ったことあるでしょ」
首に触れている手を指差しながら主張する雪の意見は、尤もだ。
この世界の中なら、何度だって雪に触れた。
それこそ勢いにまかせておふざけのようなキスだってしたことがある。
「"ここ"でなら、だろ。俺は外の世界で雪に触れたことがない」
「そと…?」
「だからあの時が初めてだった。初めて、雪の体の温かさを知った」
首に触れていた手が、するりと肩に滑り落ちる。
「肌の柔らかさも。触れたところから熱くなることも。鼻の抜けた声に混じる艶も」
「テ、ティキ…何言って」
「本当のこと言ってるだけ。俺が知ってたのはその心だけで、外側を覆うものは何も知らなかったんだなって。…雪のそういう姿も」
肩から髪へと触れた手が、するりと一房だけ掬い上げる。
「そういうの、あのセカンドエクソシストに見せてんの?」
「…ぇ…」
此処は雪の心の中だ。
神田ユウの記憶も当然のものとして存在する。
ティキの問いに思い出す何かがあったのか、さっと雪の頬に朱色が差し込んだ。
十分だった。
その反応だけで。
「雪には怒ってないよ。けど、もうここでは会わない」
「え…っな、なんで」
「そういう顔を見たくないから」
触れていた髪束から手を退く。
はらりと落ちる暗い色の髪が、雪の顔に影を差す。
ならばそんな話題を出さなければいいだけ、という訳にもいかない。
それ程までに、月城雪という女性の内側へと踏み込んだ。
それを後悔などしていないし、必ず取り戻さなければという決意も抱いた。
抱いたからこそ、区切りをつけるべきだと思ったのだ。
いつまでも生温い夢心地などではいられない。