My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
何も知らないからこそ、行き場のない思いが渦巻く。
「もしかして私、煩かった?…もう少し落ち着いて話すね」
自分が原因とは思っているらしく、先程の勢いが嘘のように大人しくなる。
自然と頭も下がり、しゅんとしているようにも見える雪に、ティキは零れそうになった吐息を飲み込んだ。
溜息などつけば、更に雪の頭が下がるのは目に見えている。
「──首」
「え?」
「もう平気? 結構酷い火傷したってワイズリーから聞いたけど」
「あ…うん。大丈夫。アルバ…魔法使いのお爺さんが、治してくれて。その日のうちに痛みも全部、取り除いてもらえたの」
(…あのじいさんのことか)
ワイズリーに首の火傷のことを話したのか、雪の記憶に明確な憶えはない。
それでもティキの問いに流されるまま、イノセンスに焼かれたあの日のことを思い出した。
先程の反省が尾を引いているのか、ぽそぽそと声を静めて語る雪に、ティキの脳裏にもあの日の光景が浮かぶ。
後一歩、と言うところで雪を掻っ攫われた。
ノアの手もすり抜ける、強い魔力を持った老人──アルバス・ダンブルドアによって。
「痛くない?」
「ぅ…うん」
す、と伸びたティキの手が、極自然に雪の首に触れる。
女性特有の細く華奢な首には、あの忌々しいイノセンスの首輪はない。
それでも気持ちは静まらない。
今は目に見えないだけで、実際には雪の身体を拘束し続けているだろう。
「ティキ…あの…くすぐったい…」
長い指先が、首筋を、項を、傷跡を探すかのように撫でる。
首を竦めて微かに主張するものの、雪は逃げる素振りを見せない。
気恥ずかしそうにこちらを伺っている。
思わず奥歯を噛み締めた。
「──……に…」
「え…?」
(こんなに近くにいるってのに)
吐露しそうになった言葉を呑み込んで、再び噛み締める。
幾度も言葉を交え、感情を拾い、目線を合わせてきた。
故にここまで心は近付けたというのに、その体温には一切触れられないのだ。
雪へと向ける心が揺れ動けば動く程、ティキの奥底にある思いがじりじりと黒く燻る。